憧れの教育実習生に、脈がない!?

凍てつくような六畳間に、底知れぬ恐怖が降り積もっていく。
しかし、絶望に染まりかけたコウの脳裏に、突如としてある強烈な閃きが走った。

先ほど純太が語った、4年前の凄惨な記憶。
『赤紫蘇ジュースを通して前の生贄の血を飲まされ、僕は呪いを継承しました』という、あの言葉だ。

「……待って」

コウは弾かれたように顔を上げ、純太を真っ直ぐに見据えた。その瞳には、先ほどまでの恐怖とは違う、どこか狂気じみた決意の光が宿り始めていた。

「先生。あんた、さっき言ったよな。前の生贄の『血』を飲んだから、よそ者であるあんたに呪いが移ったんだって」

純太がハッとして息を呑む。コウの思考がどこへ向かっているのか、直感的に察したのだ。

「俺がよそ者で、呪いを引き継ぐ条件を満たしてるなら……」

コウは純太に一歩、にじり寄った。

「今、俺が先生の血を飲めば……先生の呪いを、俺に全部移せるんじゃないのか!?」
「な……っ!?」

純太の顔から、さらに血の気が引いた。コウの恐ろしい発想と、その先にある自己犠牲の思惑を瞬時に理解したのだ。

「馬鹿なことを言わないでください! そんなことしたら、今度は君がこの終わらない冬に閉じ込められるんですよ!?」
「だって、そうすれば先生は呪いから解放されるだろ!? 脈も体温も戻って、村から出られるようになる!」
「絶対に駄目です! 僕は……君を巻き込みたくないから、今まで一人で……っ!」

純太は悲鳴のような声を上げ、激しく首を横に振りながら後ずさった。
だが、そのひどく動揺した足取りと、生来の不器用さがここで災いした。

「あっ……」

足元がおぼつかなかった純太は、古い畳のささくれに派手につまずき、そのまま背後のちゃぶ台の角に「ゴンッ!」と勢いよく頭をぶつけてしまった。

「痛っ……」

純太が涙目で頭を抱えてうずくまる。
普通の高校生なら、「先生、大丈夫!?」と慌てて駆け寄るところだろう。しかし、たった今『呪いを移す方法』を閃いてしまったコウは違った。

コウは弾かれたように純太のそばに膝立ちでスライディングすると、純太の顔を無理やり両手で挟み込み、暗闇の中で目をギラギラと輝かせた。

「先生! 血! 血、出てない!? ちょっとかすり傷でもいいから見せて! 俺が舐めるから!」
「……はい?」

痛みを堪えていた純太は、コウのあまりにも狂気じみた――そして明らかに期待に満ちた言葉に、思わず痛みを忘れてポカンと口を開けた。

「血って……ただぶつけてたんこぶが出来ただけですよ!? というか、何でそんなに僕の出血を期待してるんですか!」
「えー、ちぇっ。なんだよ、血出てないのか。ちっ、もっと思い切りぶつけてくれてもよかったのに」
「舌打ちしないでください! さっきから何なんですか、吸血鬼ですか君は!」

本気で残念そうに唇を尖らせるコウに、純太は心底呆れたように大きすぎるため息をついた。先ほどまでの絶望的で悲痛な空気は、見事にぶち壊されている。

「……あのねぇ。君は自分が身代わりになることの恐ろしさをわかってるんですか?」
「わかってるよ。でも、先生がこの村でずっと一人で凍えてるくらいなら、俺が呪いかぶった方が何百倍もマシだ」

コウは悪びれる様子もなく、純太の隣にあぐらをかいてどっかりと座り込んだ。

「俺、絶対諦めないからな。先生が紙で指切ったり、転んで膝擦りむいたりするの、ずっと見張ってっから。絶対隙を見て血、貰うから」
「……どんな宣言ですか、それは」

真顔で恐ろしいストーカー宣言をしてくるコウを前に、純太はじんじんと痛む頭をさすりながら、すっかり毒気を抜かれてしまっていた。

永遠の孤独を背負う純太の前に現れた、あまりにも図太くて、身勝手で、どうしようもなく温かい「よそ者」。
純太は呆れ顔のまま、それでも隠しきれない安堵と諦めがないまぜになったような、微かな笑みをこぼした。