純太の冷たい体を力強く抱きしめながら、コウはその背中に顔を埋め、静かに息を吐き出した。
「……先生、俺のことそんな風に思っててくれたんだな。……すげー嬉しいよ」
コウの体温に包まれ、純太もまた、恐る恐るその腕をコウの背中へと回そうとした。
しかし、コウはゆっくりと純太から体を離し、真剣な、そしてどこか戦慄を帯びた瞳で純太の顔を見つめ返した。
「でもさ、先生……。俺が先生を忘れなかったのって、単なる偶然とか、俺たちの絆のおかげだけじゃないのかも」
「……え?」
「俺の記憶が消されなかったのは……俺自身が、この村にとって『よそ者』だからなんじゃないか?」
純太の涙に濡れた瞳が、ハッと大きく見開かれた。
それは明らかに、「その視点はなかった」と虚を突かれた顔だった。
「確かに、俺を引き取ったじいちゃんとばあちゃんは、間違いなくこの村の人間だ。でも、親父はずっと昔に村を捨てて東京に出て、向こうで死んだ。俺は東京で生まれてずっと東京で育って、親父が死んだから去年この村にやってきたばかりなんだよ」
コウは自身のルーツをなぞりながら、頭の中で急速にピースを組み合わせていく。
この村に蔓延る忘却の呪い――あるいは、村を支配するシステムが、コウの血筋を『村人』と判断しているか、それとも外から来た『よそ者』と判断しているかは、非常に曖昧なラインだ。
もし、コウが呪いのシステムから『よそ者』として判定されているのだとしたら、村人たちにかかっている洗脳や忘却の暗示が、コウにだけ効かなかったことにも完全に説明がつく。
だが、それは同時に、取り返しのつかない最悪の事実を意味していた。
「……よそ者は、神様への贈り物」
純太が、血の気の引いた青白い唇を震わせ、絵本の一節をなぞるように呟く。
純太もまた、同じ結論に行き着いたのだ。
コウの脳裏に、這いずるような祖母の低くしゃがれた声が蘇る。
『ええ血ぃ、作らな……』
今朝、車に乗る前に近所の村人たちから執拗に押し付けられた食事と、首筋を撫で回されたあの不気味な感触。
『コウ君はね、うちの村のたいせつな、たいせつな宝物なんやから!』
あれは、決して孫への愛情でも、隣人への善意でもなかった。
「先生……俺も、」
コウの喉が、カラカラに乾いて張り付く。
「俺も、この村に狙われてるかもしんねえ。」
「……先生、俺のことそんな風に思っててくれたんだな。……すげー嬉しいよ」
コウの体温に包まれ、純太もまた、恐る恐るその腕をコウの背中へと回そうとした。
しかし、コウはゆっくりと純太から体を離し、真剣な、そしてどこか戦慄を帯びた瞳で純太の顔を見つめ返した。
「でもさ、先生……。俺が先生を忘れなかったのって、単なる偶然とか、俺たちの絆のおかげだけじゃないのかも」
「……え?」
「俺の記憶が消されなかったのは……俺自身が、この村にとって『よそ者』だからなんじゃないか?」
純太の涙に濡れた瞳が、ハッと大きく見開かれた。
それは明らかに、「その視点はなかった」と虚を突かれた顔だった。
「確かに、俺を引き取ったじいちゃんとばあちゃんは、間違いなくこの村の人間だ。でも、親父はずっと昔に村を捨てて東京に出て、向こうで死んだ。俺は東京で生まれてずっと東京で育って、親父が死んだから去年この村にやってきたばかりなんだよ」
コウは自身のルーツをなぞりながら、頭の中で急速にピースを組み合わせていく。
この村に蔓延る忘却の呪い――あるいは、村を支配するシステムが、コウの血筋を『村人』と判断しているか、それとも外から来た『よそ者』と判断しているかは、非常に曖昧なラインだ。
もし、コウが呪いのシステムから『よそ者』として判定されているのだとしたら、村人たちにかかっている洗脳や忘却の暗示が、コウにだけ効かなかったことにも完全に説明がつく。
だが、それは同時に、取り返しのつかない最悪の事実を意味していた。
「……よそ者は、神様への贈り物」
純太が、血の気の引いた青白い唇を震わせ、絵本の一節をなぞるように呟く。
純太もまた、同じ結論に行き着いたのだ。
コウの脳裏に、這いずるような祖母の低くしゃがれた声が蘇る。
『ええ血ぃ、作らな……』
今朝、車に乗る前に近所の村人たちから執拗に押し付けられた食事と、首筋を撫で回されたあの不気味な感触。
『コウ君はね、うちの村のたいせつな、たいせつな宝物なんやから!』
あれは、決して孫への愛情でも、隣人への善意でもなかった。
「先生……俺も、」
コウの喉が、カラカラに乾いて張り付く。
「俺も、この村に狙われてるかもしんねえ。」
