憧れの教育実習生に、脈がない!?

「この絵本に書かれている通りですよ、コウ君」

純太はゆっくりと土間から上がり、ストーブの消えた冷たい部屋の中央へと歩みを進めた。自らの過去を語るその声は、どこまでも静かで、深い諦めに満ちていた。

「あの夏の夜、赤紫蘇ジュースを通して前の生贄の血を飲まされ、僕は『呪い』を継承しました。……それからの3年間、僕は毎冬、この村の高校に『新しい転校生』として現れることになったんです」

コウは息を呑み、黙って純太の言葉に耳を傾けた。

「冬が来るたびに、クラスメイトと笑い合い、友達を作りました。でも……春が来て雪が溶けるたび、僕という存在は村人たちの記憶から完全に消去される。次の冬には、また誰の記憶にもない初対面の『よそ者』として、一人で教室の扉を開ける……ずっと、その繰り返しでした」

どれだけ絆を結んでも、季節が巡ればすべてが白紙に戻る。永遠に繰り返される忘却のシステム。

「去年からは大学生の年齢になったので、村のシステムによって、今度は『教育実習生』として教壇に立つことになりました。……小さい頃からの夢がこんな形で叶うなんて、残酷な皮肉ですよね」

純太は自嘲するように小さく笑い、ふっと目を伏せた。

「何度も何度も忘れられる寂しさに、僕はもう、すっかり疲れ果てていました。だから去年、実習生として君たちの前に立った時、僕はもう誰とも関わらないと決めていたんです。最初から壁を作って距離を置いていれば、春が来て忘れられても、これ以上心を殺されずに済む……そう思って」

そこまで語ると、純太はゆっくりと顔を上げた。
氷のように冷え切ったその瞳の奥で、微かに、けれど確かな熱のようなものが揺らいでいるのをコウは見た。

「……でも、君は違った」

純太の声が、わずかに震えた。

「東京から転校してきた君は、僕がどれだけ冷たく突き放して壁を作っても、そんなものお構いなしに飛び越えて、ズカズカと僕の領域に踏み込んできた。無理やり雪だるま作りに付き合わされて、真っ黒になったマシュマロを見て笑い合って……」

去年の冬の、あの凍えるような雪の中での記憶。
純太の顔に、あの時と同じ、泣き出しそうなほど優しくて不器用な笑みが浮かぶ。

「……本当に、嬉しかったんです」

絞り出すような、切実な声だった。

「この呪われた村で、誰かと過ごす時間を愛おしいと思ったのは、君が初めてでした。……初めて、心の底から『この人には、僕を忘れてほしくない』って、そう思ってしまったんです」

コウの胸が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
1年前の冬。東京に帰るはずの純太が、ひどく哀しい目をして「きっとその頃には、僕のことなんて忘れてますよ」と呟いた理由。

「だから僕は、あの日君に手紙の宛先を渡したんです。君が僕を覚えていてくれるか……ただの、僕の身勝手な『賭け』でした。君が本当に僕のことを忘れずにいてくれたと知った時、僕がどれほど……」

言葉を詰まらせた純太の瞳から、再び透明な涙がこぼれ落ちる。

「……っ、先生」

コウは絵本を放り出し、たまらず純太に駆け寄った。
その死体のように冷え切った体を、今度こそ逃がさないように、強く、強く抱きしめる。純太の体温の無さは、彼が一人で耐え続けてきた絶望と孤独の冷たさそのものだった。