憧れの教育実習生に、脈がない!?

古いあばら家の隙間から、容赦なく冬の寒風が吹き込んでいる。
去年コウにカップラーメンを振る舞ったあの六畳間に、純太は電気もストーブもつけず、ただ一人、暗闇の中に座り込んでいた。どうせ寒さなど感じない体だ。部屋を温める意味などなかった。

純太の両手の中には、放課後にコウが背中に貼っていったカイロが握りしめられている。
物理的な熱を放つその小さな塊は、純太の体を温めることなど決してできない。それでも純太は、まるでそれが唯一の命綱であるかのように、大切に包み込んでいた。

「……馬鹿だな、僕は」

誰もいない部屋で、ポツリと呟く。
去年の冬、あんなにも冷たく突き放したのに。自分はもう、生きた人間(ヒト)と温もりを共有することなど許されないバケモノなのに。

『先生!』

変わらない無邪気さで笑いかけてくるコウの顔を思い出すと、胸の奥が張り裂けそうだった。
冷え切った純太の白い頬を、一筋の涙が伝って落ちる。血の通っていない体から溢れるそれは、ひどく冷たく、カイロを持った手にポタ、ポタと静かに染み込んでいった。

――ガラララッ。

不意に、玄関の古い引き戸が開く音がした。
「……先生、いる?」

ハッとして純太が顔を上げる。
遠慮がちに聞こえてきたその声は、コウのものだった。

純太は慌てて乱暴に涙を拭い、暗い部屋の入り口に立つシルエットを見た。

「コウ、君……どうしてここに」
「教室に先生がボールペン忘れてたから。……まだこの家に住んでるかなって思って来てみたら、鍵も開いてるし、真っ暗だから……って」

言葉の途中で、コウは息を呑んで立ち止まった。
窓から差し込む青白い月明かりに照らされた純太の顔には、はっきりと涙の跡が光っていたのだ。

「先生……泣いてるの……?」

「違う、これは……っ」

見られてはいけない姿を見られ、純太は後ずさりながら言い訳を探した。
だが、コウは持っていたボールペンをポケットに突っ込むと、迷うことなく畳を踏みしめ、純太の目の前まで一気に歩み寄った。

ドンッ、と。
強い衝撃とともに、純太の体は、温かく大きな腕の中に閉じ込められた。

「……っ!? コウ君、離れ……っ!」

「だめ、離したくない」

純太が去年のように咄嗟に振り払おうと腕を突っぱねるが、コウはそれを絶対に許さなかった。あの日の拒絶を塗り替えるように、純太の背中に強く腕を回し、自分の胸にその冷たい体をギュッと押し付ける。

純太の体は、やはり氷のように冷たく硬かった。服越しでも伝わってくるその異常な冷たさに、コウ自身も気づいているはずだった。
それでもコウは、怯えるどころかさらに強く純太を抱き寄せた。

「先生がどうして泣いてるのか、なんでこんなに体が冷たいのか、俺にはまだ全然わかんないねぇけど」

耳元で、コウの心臓の音がトク、トク、と力強く鳴っているのが聞こえた。

「……けど先生のこと見てると、抱きしめたいって思っちまうんだ」

コウの生温かい体温が、抱きしめられた胸の奥からじんわりと純太を包み込んでいく。必死に抵抗しようとしていた純太の腕からゆっくりと力が抜け、握りしめていたカイロが、コトリと畳の上に転がり落ちた。