憧れの教育実習生に、脈がない!?

茶の間の息詰まる空気から逃れるように、コウは冷え切った自室のドアを急いで閉めた。暖房の効いていない部屋は外と変わらないほど寒く、古い窓ガラスが吹雪のせいでガタガタと鳴っている。
制服に染み付いた晩飯の匂いを払うように深く息を吐き出すと、コウは机の前に座り、小さな電気ストーブのスイッチを入れた。ジリジリとオレンジ色の頼りない光が足元を照らす中、机の上に広げたのは、使い込まれた英語の参考書と単語帳だ。
「東京の大学なんか行く必要ない……か」
先ほどの祖父の心無い言葉が、呪いのように耳の奥にへばりついている。コウはそれを振り払うようにシャープペンシルを握り、ノートに向かった。しかし、いくら文字を追っても全く頭に入ってこない。
「……あー、もう!全然捗んねえ。」
コウは小さくため息をつき、数分でペンを置いた。 そして、引き出しの一番奥——祖父母に見つからないように隠してある小さな箱の中から、一枚の写真を取り出した。
それはちょうど1年前、高校1年の冬に撮ったものだ。 背景には、今日と同じような真っ白な雪景色。そこに写っているのは、少しはにかみながら不器用に笑う自分と、その隣で静かに微笑む美しい青年のツーショットだ。 透き通るような白い肌と、どこか憂いを帯びた瞳。黒いコートを着たその青年——教育実習生のジュンタの姿は、1年経った今見ても、息を呑むほど綺麗だった。
凍えるような雪景色の中で撮られた一枚。けれど、コウにとっては写真越しに思い出す彼の記憶こそが、何よりも温かかった。
写真を見つめるうち、コウの口元に今日初めての穏やかな笑みが浮かんだ。 コウは写真の隣に、大切にしまっていた便箋を置き、お気に入りのボールペンを手に取った。カチッと小さな音を立ててペン先を出し、紙に触れる。静かな部屋の中に、文字を書き綴る微かな音だけが響き始めた。