散らばった小テストの束を二人で拾い集めているうちに、窓の外はすっかり茜色に染まっていた。窓から理科準備室に差し込む夕陽が、冷え切った空気をほんのりと暖かく照らしている。
「……先生が俺のこと忘れたフリしてたのは、ただの照れ隠しだってわかったから、もういいんですけど」
床のプリントをトントンと揃えながら、コウはふと顔を上げて不満げに口を尖らせた。
「それにしても、クラスの奴ら全員が先生のこと忘れてるなんて、いくらなんでも薄情すぎません? 去年だって『今年の教育実習生ばりイケメンやん!』とかみんな盛り上がってたくせに、」
言葉を続けようとしたコウだったが、立ち上がった純太の横顔を見てピタリと止まった。 夕陽の温かなオレンジ色に照らされているというのに、純太の肌はどこまでも透き通るように白く、そして酷く寂しげに見えたからだ。
純太は手元の資料からゆっくりと視線を外し、窓の外へと目を向けた。
「……世の中には、忘れてしまったほうがいいことだって、たくさんあるんですよ」
それは、生徒たちの薄情さを窘めるというよりも、もっと深く、暗い何かを暗示しているような響きだった。純太の静かで冷たい声が、夕暮れの教室に溶けていく。
「それに……」
純太はふと目を伏せ、コウの足元を見つめるようにして、小さくぽつりと呟いた。
「……コウ君が僕を覚えていてくれるかどうかも、賭けみたいなものでしたけどね」
「え? 賭け? なんの話ですか?」
「いいえ、独り言です。ほら、もうこんな時間だ。雪がひどくなる前に、そろそろ帰りましょう」
足早に出入り口へと向かう純太に促されるまま、コウも鞄を手に取った。純太の背中を見つめながら、コウは小さく首を傾げる。
『賭け』。
その言葉がどういう意味なのか、今のコウには全く見当もつかなかった。
「……先生が俺のこと忘れたフリしてたのは、ただの照れ隠しだってわかったから、もういいんですけど」
床のプリントをトントンと揃えながら、コウはふと顔を上げて不満げに口を尖らせた。
「それにしても、クラスの奴ら全員が先生のこと忘れてるなんて、いくらなんでも薄情すぎません? 去年だって『今年の教育実習生ばりイケメンやん!』とかみんな盛り上がってたくせに、」
言葉を続けようとしたコウだったが、立ち上がった純太の横顔を見てピタリと止まった。 夕陽の温かなオレンジ色に照らされているというのに、純太の肌はどこまでも透き通るように白く、そして酷く寂しげに見えたからだ。
純太は手元の資料からゆっくりと視線を外し、窓の外へと目を向けた。
「……世の中には、忘れてしまったほうがいいことだって、たくさんあるんですよ」
それは、生徒たちの薄情さを窘めるというよりも、もっと深く、暗い何かを暗示しているような響きだった。純太の静かで冷たい声が、夕暮れの教室に溶けていく。
「それに……」
純太はふと目を伏せ、コウの足元を見つめるようにして、小さくぽつりと呟いた。
「……コウ君が僕を覚えていてくれるかどうかも、賭けみたいなものでしたけどね」
「え? 賭け? なんの話ですか?」
「いいえ、独り言です。ほら、もうこんな時間だ。雪がひどくなる前に、そろそろ帰りましょう」
足早に出入り口へと向かう純太に促されるまま、コウも鞄を手に取った。純太の背中を見つめながら、コウは小さく首を傾げる。
『賭け』。
その言葉がどういう意味なのか、今のコウには全く見当もつかなかった。
