憧れの教育実習生に、脈がない!?

♪〜(ヴィヴァルディ『四季』より「春」)

『お昼の時間です。日直は、校長室まで牛乳を取りに来てください』

のどかなクラシック音楽に乗せて、事務的な放送が教室に響き渡る。
コウは自分の弁当箱を広げながら、天井のスピーカーを恨めしそうに見上げた。
(外はこんな寒いってのに、一年中『春』を流すなんて……相変わらず校長は趣味が悪いよな)

この学校には給食はない。だが、「生徒の健康管理のため」という名目で、昼休みには毎日必ず全員が牛乳を飲まなければならないという絶対の決まりがあった。
しかも、ただの配給ではない。牛乳瓶のフタには生徒の出席番号と名前がデカデカと書かれており、誰が飲んで誰が残したか、異常なほど厳重に管理されているのだ。

「ほら田中、息止めて一気にいけ。残すのは校長先生が許さんぞ」
「うぅ……先生、俺マジで牛乳だけは……オエッ」
教室の隅では、牛乳嫌いの田中が、担任の教師に腕組みをして見張られながら、涙目で瓶と睨み合っている。いつも通りの、どこか窮屈な昼休みの光景だ。

「なぁ、コウ」
弁当のおかずをつついていたコウの前の席に、友人の鈴木が椅子を逆さにして座り込んできた。鈴木は担任の目を盗むように、少し声を潜める。

「あの新しい教育実習生……黒島先生のことなんだけどさ」
「先生がどうした?」
「女子の間で、変な噂になってるんだよ。あの人、実は『幽霊』なんじゃないかって」
「……んぶっ!?」

突拍子もない言葉に、コウは口に放り込んだばかりのおかずをあわや盛大に吹き出しそうになり、慌てて両手で口元を覆った。

「ゲホッ、ゴホッ……はぁ!?」

激しくむせ返りながら、コウは箸を止める。

「いや、マジだって。今朝、暖房が切れてて教室めっちゃ寒かっただろ? みんな息が真っ白だったのに、一番前の席にいた奴が見たんだよ。黒島先生が吐く息だけ、全く白くなかったって」
「……」
「それに、霊感があるって自称してる隣のクラスの女子も、『あの先生からは生きた人間の気配がしない』とか言い出しててさ。なんか不気味じゃね?」

鈴木の怪談話めいた言葉に、コウの脳裏に先日の感触がフラッシュバックする。
自分を冷たく突き放した、純太の腕。
死体かと思うほどの、異常な冷たさ。

一瞬、コウの顔から表情が消える。
だが、すぐに小さくかぶりを振り、箸で卵焼きを乱暴に掴んで口に放り込んだ。

「……バカバカしい。幽霊とかいるわけないだろ。」
「ええ〜? でも息が白くないのは……」
「光の加減だっての。ほら、お前も変な噂話してないでさっさと飯食えよ。昼休み終わるぞ」

鈴木の言葉を強引に遮り、コウは再び弁当に向き合った。