「……やっぱり、覚えてんじゃん」
低く、愉悦に満ちた声だった。コウは音もなく立ち上がると、一気に机を乗り越えた。
「ち、違う、今のは言葉の綾というか、その……!」
先ほどまでの態度はどこへやら、純太は椅子を鳴らして後退り、壁際に追い詰められる。完璧な教師の仮面が剥がれ落ち、中から現れたのは、嘘が下手で慌てふためく「あの頃の純太」そのものだった。
「先生、観念しなよ。もう逃げられないから」
コウは勝利を確信し、嬉しそうに純太の腕を掴もうと手を伸ばした。壁に手をついて逃げ場を失っている純太の右腕を、ガシッと力強く掴む。
しかし。 その瞬間、
「ヒッ」
悲鳴を上げたのは純太ではなくコウだった。
そしてそれは、純太の身体があまりにも冷たすぎたからだった。
慌てて離した手でもう一度ゆっくりと純太の腕を掴んでみる。
「……先生、何でこんな冷たいの、」
指先から伝わってくる感覚に、ゾッとする。純太の腕は、まるで冬の屋外に放置された石像のように、あるいは氷の彫刻のように……言葉を選ばなければ死人のように冷たかった。
暖房が効き、先ほどまで小テストを採点していたはずの、生きている人間の体温が、どこにも存在しない。
不審に思ったコウは、掴んだ手の力を緩めず、そのまま指を彼の手首の裏側へと滑らせた。
「ちょっと、くすぐったいんだけど…」
純太の人間らしい反応とは裏腹に、手首からもトク、トク、という、命の証であるはずの「脈打つ感覚」が――全く、伝わってこないのだ。
「先生……なんで……」
気まずい沈黙が流れる。
(キーンコーンカーンコーン――)
不意に鳴り響いたチャイムに、純太は弾かれたようにコウの手を振り払い、理科準備室を飛び出した。
低く、愉悦に満ちた声だった。コウは音もなく立ち上がると、一気に机を乗り越えた。
「ち、違う、今のは言葉の綾というか、その……!」
先ほどまでの態度はどこへやら、純太は椅子を鳴らして後退り、壁際に追い詰められる。完璧な教師の仮面が剥がれ落ち、中から現れたのは、嘘が下手で慌てふためく「あの頃の純太」そのものだった。
「先生、観念しなよ。もう逃げられないから」
コウは勝利を確信し、嬉しそうに純太の腕を掴もうと手を伸ばした。壁に手をついて逃げ場を失っている純太の右腕を、ガシッと力強く掴む。
しかし。 その瞬間、
「ヒッ」
悲鳴を上げたのは純太ではなくコウだった。
そしてそれは、純太の身体があまりにも冷たすぎたからだった。
慌てて離した手でもう一度ゆっくりと純太の腕を掴んでみる。
「……先生、何でこんな冷たいの、」
指先から伝わってくる感覚に、ゾッとする。純太の腕は、まるで冬の屋外に放置された石像のように、あるいは氷の彫刻のように……言葉を選ばなければ死人のように冷たかった。
暖房が効き、先ほどまで小テストを採点していたはずの、生きている人間の体温が、どこにも存在しない。
不審に思ったコウは、掴んだ手の力を緩めず、そのまま指を彼の手首の裏側へと滑らせた。
「ちょっと、くすぐったいんだけど…」
純太の人間らしい反応とは裏腹に、手首からもトク、トク、という、命の証であるはずの「脈打つ感覚」が――全く、伝わってこないのだ。
「先生……なんで……」
気まずい沈黙が流れる。
(キーンコーンカーンコーン――)
不意に鳴り響いたチャイムに、純太は弾かれたようにコウの手を振り払い、理科準備室を飛び出した。
