2225日後

「好きだ」
 暖がいった。
 おれは暖に背中を向け、眠りの淵に半身を傾けていた。数秒措いて、目を開けた。
「……なんなんだよ、今さら」
 振り返らなかった。たぶん、暖もおれを見ていない。ここ数日では珍しく、おれたちは数十センチの距離を置いて横になっていた。
「いっておきたかった」
 暖の声が天井に吸い込まれる。
 おれはマットレスに手をついて体を起こした。ついさっきまで暖に犯されていた下腹部にびりっと痛みがはしる。上半身を捻って暖を見た。暖は首の裏で指を組んで仰向けになっていた。
 首を伸ばし、暖の唇に自分のおなじものを触れさせた。
「……なんかいったほうがいいのか」
「……いや」
「だったらおれ寝るけど」
「うん」
 沈黙。おれは暖の胸に頭を乗せた。鎖骨のごりっとした感触をこめかみに感じる。暖が手を伸ばし、髪を撫でてきた。汗で湿った髪に指先を絡ませる。
「髪、切ろうかな」
「うん」
 沈黙。暖は飽くことなくおれの髪を撫で続けている。
「俊介」
 おれはまどろみかけていて、返事の代わりに顎を上げた。暖がおれを見ていた。唇が触れあった。二度目は上唇を軽く挟むだけの小さなキスだった。暖は目を開けたままで、おれも瞬きせずに暖を見上げていた。
「……なんでもない」
 暖はもう一度、今度は眉間に唇をつけて、おれの背中に腕を回した。裸の肩を掌で何度も摩りながら、伸びた前髪に鼻先を擦りつける。
「おやすみ」
 おれは返事の代わりに頷いた。暖の胸とおれのこめかみが擦れた。
 暖の心臓の音を聞きながら、おれは眠りについた。