絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

 その後。駅の反対方向へ帰っていく皆川さんを見送ってから、僕たちも家へ向かって歩き出した。
 一緒に帰るのはいつも通り。でも。手を。手をつないでいる。しかも恋人つなぎ。ファミレスを出た時からずっとこう。偽装工作なのはわかるけれど。

「もう離していいんじゃない? 皆川さんも見てないし」
「別にいいじゃん、家までこのままで」

 照れているのは僕だけで、れいちゃんは恥ずかしがる様子もなくさらりと答えた。
 子供の時はしょっちゅう手をつないでたから、今更照れることでもないんだけど。でも僕たちはもう高校生。小さな頃とは違って、れいちゃんの手は大きくて頼もしい。僕も同じだけ成長してるはずなのに、手をつないでいるだけでなんだかほっとする。
 ――それにしても。

「びっくりした、僕たちが付き合ってるとか」
「俺はそれよりもあの人の押しの強さに驚いたけどな。いつも通り『つきあってる子がいる』って断ったんだろ?」
「そうそう! ちゃんと言ったんだよ僕はぁ。でも皆川さんコミュニケーションおばけだから効かなかった」
「そういう人いるよな」
「悪い人じゃないんだけどね。なんかとにかく友達欲しいらしくて」
「インスタ千人ぐらいフォローしてそう」
「しかも全員ちゃんと直の知り合いだったりするかも」
「ありえる」

 小声で笑い合いながら夜の住宅街を歩く。
 こんなに遅い時間まで出歩いても怒られない、という事実にまだ馴染めなくて、なんとなくそわそわする。もう子供じゃない。でも大人になりきったわけでもない。曖昧な境界の上を、れいちゃんと手をつないで歩いている。
 変わっていくことと、変わらないこと。どれだけ成長しても、れいちゃんとはずっと変わらずに友達でいられたらいいなって思う。

「また押しの強い人がいたら、俺とノアがつきあってることにしといて」
「んえ~?」

 れいちゃんのお願いに、僕は半笑いで答える。それで通用するかな。皆川さんは納得してくれたけど、れいちゃんと僕だよ? 全然つり合ってない。てゆうか「あのかっこいい子紹介して」と言ってきた人に、面と向かって「あの人は僕の彼氏です」って言うわけ? なんだそれ恥ずかしすぎる。

「――それとも本当につきあう?」
「いやもー、ないでしょそんなん!」

 恥ずかしすぎてついでっかい声が出てしまう。
 僕なんかがれいちゃんみたいな超かっこよくてなんでもできる人と付き合うとか。嘘でも厚かましい。てゆうか今更だけど皆川さんにれいちゃんと僕がつきあってるって嘘ついたのすごく恥ずかしいな。皆川さんは美少女の彼女を想像してたのに。ところがどっこい僕で~す、って。やばい。やばすぎて、つないでいた手が緩んでしまう。れいちゃんの手も緩む。

「そうか……」
「でもナンパされて困ってる時は全然助けるから! 今日はちょっと押し負けちゃったけど、今後は絶対、知らない人にいきなり会わせたりしないし!」

 声のトーンが下がったれいちゃんを励ますように、離れかけた手をぎゅっと握りしめる。こんな僕でも、たまには頼られたい。れいちゃんは僕の方を見て、なんだか少し寂しそうに笑った。
 それからは、なんでもない日常の雑談をして。でも僕は頭の片隅で、れいちゃんのことを考え続けた。
 友達でいてくれるだけで嬉しい。しかも、一番の友達。それ以上なんてないと思ってたのに。
 ――僕たちが本当につきあうとか、あるんだ。
 いやいやないない、いつもの冗談に決まってる。
 冗談に決まってるのに。小さな頃から何度もつないだ手が、やけに熱くて。僕は手汗が出てないか気になって仕方がなかった。