*side乃碧
高校生になったら絶対にやりたいと思っていたことのひとつ。この春から、僕はコンビニでバイトを始めた。
わかってたけど覚えなくちゃいけないことがめちゃくちゃ多い。レジでの接客、商品の品出し、ホットスナックの調理、宅配便や公共料金の支払いなどの各種代行サービスの受付、その他いっぱい。ベテラン社員のグエンさんが言うには「昔は端末の操作が複雑でもっと大変だった」とのことで。これでもマシな方らしい。バイトを始めてもう一ヶ月近くたつのに、僕はいつもてんてこまいだ。
でも、働いてるといいこともある。
「よ」
「……! いらっしゃいませー」
お客さんとしてやってきたれいちゃんに向けて、照れくさい気持ちになりながら接客する。毎回じゃないけれど、僕がシフトを入れている日に、れいちゃんはちょっとしたものを買いに来る。フリスクとかガムとかシャーペンの芯とか。今日はチョコレートバーをひとつ。
僕が商品にもたもたとシールを貼っている間に、れいちゃんがぽつりとつぶやく。
「ガストにいるから」
「うん、あとでね。ありがとうございました~」
店から出て行くれいちゃんに、つい手をフリフリしてしまう。れいちゃんも軽く手を上げて、一瞬だけはにかんだ笑顔になる。バイト中でもこれぐらいの私的コミュニケーションは許されるであろう、と思ったら許されなかった。
「ちょちょちょ、待って、今の子知り合い?」
「アッ、ハイ、友達です」
先輩の皆川さんにめざとく見咎められる。皆川さんは僕よりひとつ年上。「わからないことがあったらなんでも言ってね!私がグエンさんに聞いといてあげるから」と請け負ってくれる、あまり頼りにならないけれど優しい先輩だ。そんな優しい先輩は今までにない勢いで僕に詰め寄った。
「ダメでしょ鈴木くん、あんなにビジュのいい友達がいるのに申告しないのはおかしい。私に届け出ないと条例違反だから。絶対紹介して」
そんな条例あるんだ? と言う前に他のお客さんがやって来て接客に追われる。時間は午後8時。駅前にあるこの店は結構忙しい。
れいちゃんはすぐ近くのファミレスで勉強している。別に僕に会いに来ているわけじゃない。場所を変えると勉強が捗るからそうしているだけで、買物をしにくるのもただのついで。でも僕のバイトが終わったら迎えに行って一緒に帰る流れになっている。
皆川さんと同じシフトの時にれいちゃんが来るのははじめてだった。皆川さんは隙を見つけては僕に「あの子の名前何?」「今日終わったら会うんでしょ?」「私も行っていいよね? いいよね??」とグイグイ迫ってくる。
気持ちはわからないでもない。れいちゃんは小さな頃からかっこよくて、小学生の時なんかクラスの女子ほぼ全員がれいちゃんのことを好きだった。高校生になった今は更にかっこいい。まあでも外見だけじゃなくて中身がすごい誠実で真面目でそのくせ面白いところもあって意地悪だけど根は優しくて頭がよくて完璧なんですよ僕の幼なじみは。
顔のよさだけじゃなくて、内面のよさまで外見に出ちゃってるからすごいモテる。今日だって部屋着に近いラフな服装だったけど、そんな気の抜けた姿でもかっこいいし。
中学生の時も、れいちゃんを紹介してほしいと僕に頼んでくる女子はたくさんいた。でもれいちゃんは知らない子と接するのが面倒だから、こういう時は「つきあってる子がいるから」と言って断っておく決まりになっている。でも皆川さんは一歩も引かなかった。
「別に彼女いてもいいじゃん、友達増えたら楽しいし。みんなでラウワンとか行こうよ」
「んえ?」
「顔面の強い友達欲しいなぁ~。あの子の彼女なら絶対顔可愛いでしょ」
「ん、ん~……」
想定外の返しに、間抜けな声が出てしまう。
友達なら別にいいのかな。皆川さんは明るくていい人だし。グイグイ来てる時の圧は強めだけれど、接客する時の笑顔も感じがいいし。れいちゃんも案外喜ぶかもしれない。
押し負けて「じゃあいいよ」と答えると、皆川さんは「ッシャ!!!!」と気合を入れて、普段の五倍ぐらい機敏に働き出した。僕はなんとなく気持ちがもやっとして、ミスを連発してしまった。
高校生になったら絶対にやりたいと思っていたことのひとつ。この春から、僕はコンビニでバイトを始めた。
わかってたけど覚えなくちゃいけないことがめちゃくちゃ多い。レジでの接客、商品の品出し、ホットスナックの調理、宅配便や公共料金の支払いなどの各種代行サービスの受付、その他いっぱい。ベテラン社員のグエンさんが言うには「昔は端末の操作が複雑でもっと大変だった」とのことで。これでもマシな方らしい。バイトを始めてもう一ヶ月近くたつのに、僕はいつもてんてこまいだ。
でも、働いてるといいこともある。
「よ」
「……! いらっしゃいませー」
お客さんとしてやってきたれいちゃんに向けて、照れくさい気持ちになりながら接客する。毎回じゃないけれど、僕がシフトを入れている日に、れいちゃんはちょっとしたものを買いに来る。フリスクとかガムとかシャーペンの芯とか。今日はチョコレートバーをひとつ。
僕が商品にもたもたとシールを貼っている間に、れいちゃんがぽつりとつぶやく。
「ガストにいるから」
「うん、あとでね。ありがとうございました~」
店から出て行くれいちゃんに、つい手をフリフリしてしまう。れいちゃんも軽く手を上げて、一瞬だけはにかんだ笑顔になる。バイト中でもこれぐらいの私的コミュニケーションは許されるであろう、と思ったら許されなかった。
「ちょちょちょ、待って、今の子知り合い?」
「アッ、ハイ、友達です」
先輩の皆川さんにめざとく見咎められる。皆川さんは僕よりひとつ年上。「わからないことがあったらなんでも言ってね!私がグエンさんに聞いといてあげるから」と請け負ってくれる、あまり頼りにならないけれど優しい先輩だ。そんな優しい先輩は今までにない勢いで僕に詰め寄った。
「ダメでしょ鈴木くん、あんなにビジュのいい友達がいるのに申告しないのはおかしい。私に届け出ないと条例違反だから。絶対紹介して」
そんな条例あるんだ? と言う前に他のお客さんがやって来て接客に追われる。時間は午後8時。駅前にあるこの店は結構忙しい。
れいちゃんはすぐ近くのファミレスで勉強している。別に僕に会いに来ているわけじゃない。場所を変えると勉強が捗るからそうしているだけで、買物をしにくるのもただのついで。でも僕のバイトが終わったら迎えに行って一緒に帰る流れになっている。
皆川さんと同じシフトの時にれいちゃんが来るのははじめてだった。皆川さんは隙を見つけては僕に「あの子の名前何?」「今日終わったら会うんでしょ?」「私も行っていいよね? いいよね??」とグイグイ迫ってくる。
気持ちはわからないでもない。れいちゃんは小さな頃からかっこよくて、小学生の時なんかクラスの女子ほぼ全員がれいちゃんのことを好きだった。高校生になった今は更にかっこいい。まあでも外見だけじゃなくて中身がすごい誠実で真面目でそのくせ面白いところもあって意地悪だけど根は優しくて頭がよくて完璧なんですよ僕の幼なじみは。
顔のよさだけじゃなくて、内面のよさまで外見に出ちゃってるからすごいモテる。今日だって部屋着に近いラフな服装だったけど、そんな気の抜けた姿でもかっこいいし。
中学生の時も、れいちゃんを紹介してほしいと僕に頼んでくる女子はたくさんいた。でもれいちゃんは知らない子と接するのが面倒だから、こういう時は「つきあってる子がいるから」と言って断っておく決まりになっている。でも皆川さんは一歩も引かなかった。
「別に彼女いてもいいじゃん、友達増えたら楽しいし。みんなでラウワンとか行こうよ」
「んえ?」
「顔面の強い友達欲しいなぁ~。あの子の彼女なら絶対顔可愛いでしょ」
「ん、ん~……」
想定外の返しに、間抜けな声が出てしまう。
友達なら別にいいのかな。皆川さんは明るくていい人だし。グイグイ来てる時の圧は強めだけれど、接客する時の笑顔も感じがいいし。れいちゃんも案外喜ぶかもしれない。
押し負けて「じゃあいいよ」と答えると、皆川さんは「ッシャ!!!!」と気合を入れて、普段の五倍ぐらい機敏に働き出した。僕はなんとなく気持ちがもやっとして、ミスを連発してしまった。
