絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ




「……はー……」

 抱きしめていたエビフライを解放して、寄ってしまった綿を戻すためにぽんぽん叩く。
 ノアは今でも、俺のことを好いている。でもそれはあくまで「友人として」という前提でだ。この一線を突き崩すのが怖い。下手に告白して、今の関係性が壊れてしまったら。ノアに距離を取られたら――なんて、考えただけで怖すぎる。
 だったら。ノアの方から告白してくるぐらい、かっこよくなるしかない。
 今までだって全力でかっこつけて自分を磨きまくってきた。これからだって全力だ。
 ノアが俺のことを意識せずにいられないように。いつも余裕で、なんでもできるかっこいいれいちゃんでいる。
 ――絶対に惚れさせてやる。
 決意を固めていたら、ノアが出しっぱなしにしていった牛乳がふと目に入った。
 嫌いなものを友達に押し付けていたという、小学生の頃の情けないエピソード。ノアはがっかりしただろうか。今からでも克服したらノアにモテるかな。いやモテないか。モテなくてもちょっとはすごいって思われるかもしれない。
 牛乳をコップに注いで匂いを嗅いでみる。意外と飲めるかもしれない。少しだけ口に含んでみる。

「うぐぅ……!」

 あ、やっぱ無理だな。情けなく呻きながらも、口に入れた分は飲み下す。
 喉越しも後味も何もかも嫌すぎる。流しに捨ててやろうか。それで俺が飲み切ったふりをして――いやそれはダメだ、ノアの信頼を裏切ることになる。
 気持ちを奮い立たせるためにエビフライを小脇に抱える。頼むエビフライ俺に勇気をくれ。
 鼻を摘んで。再び口をつけて。俺は牛乳を一気に飲み干した。

「グワーッ!」

 やっぱりまずい。洗面所に駆け込んで口をゆすごうとしたけれど、玄関先でノアが鍵を開けている音が聞こえてきたので慌てて座り直す。エビフライをソファの上に戻し、乱れた髪をささっと整え終えたところでノアがリビングにやってきた。

「ただいま~」
「おかえりノア。お使いさんきゅ」

 やけに息を弾ませているノアに、すまし顔を向けて手を差し出す。早く。一刻も早く口直ししたい。俺にコーラを渡す前に、ノアはテーブルの上に置かれたコップに目を留めた。

「えっ!? もしかして牛乳飲んでくれたの!? 絶対無理だって言ってたのに!」
「ああ、飲んでみたら普通にいけたわ」
「わぁ~すごい、サラッと克服してる~!」

 賛辞を送ってくるノアに向けて、指をくいくい動かしてコーラを催促する。早く。早く。
 のんびりと「れいちゃんはすごいなぁ」「捨てるのも気が引けるから飲んでもらえてよかった~」などと言っているノアを横目にコーラを流し込む。シュワシュワとした炭酸が牛乳の生臭さをさわやかに押し流していく。
 一息ついて、笑ってしまった。

「ふふっ」
「なに? なんか面白い?」
「いや、ちょっと……」

 自分のバカさ加減に笑ってしまう。ノアの好感が欲しくて必死すぎ。でも、こんな小さな賛辞すら嬉しくて、愛おしい。
 俺につられて笑ったノアの笑顔は、昔から変わらず無邪気で、でも昔よりもずっとかわいくて。この笑顔のためなら。ノアにかっこいいと思ってもらうためなら、なんだってできる。
 ――だから早く俺に惚れてくれ。
 そう願いながら、桜の花びらをのせたノアの髪をくしゃくしゃに撫でた。