絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

 出番を終えて。汗だくになった体をビオレシートで拭いて、制汗スプレーを浴びまくって予備のTシャツに着替える。髪はセットしてる暇がない。無造作ヘアということにして諦める。
 しつこい前園と須藤たちを振り切ってロビーに向かうと、ノアが待っていた。

「れいちゃん! おつかれさま!」

 真っ先に俺を見つけたノアが声を上げる。続いて健ちゃんと、小学生の頃の同級生たち3人が手を振る。
 うちの高校の文化祭は招待制。5枚チケットがあったので、もちろん真っ先にノアへ渡した。残りは全部健ちゃんに託した。誰が来るかと思ったら、修学旅行の時に同じ班だった女子たちだった。右から飯田さん、千原さん、後藤さん。そこそこ仲が良かったけれど、会うのは中学生のときにプチ同窓会をして以来だ。久しぶり、来てくれてありがとう、と挨拶をしてからは女子軍団の勢いが止まらなかった。

「成宮くん、かっっっこよかったぁああああ! なに? いつデビューすんの? 教えといてそういうの」
「ほんとメロつきが止まらない! サインください、スマホに直書きでお願いします」
「もう付き合ってくれとは言わんから、小学生の頃の元カノってことにしてくんない?」
「元カノだぁ? 厚かましいわ! 下がれ下郎!」
「下郎はひどい」

 女子3人はふざけながらきゃっきゃと笑う。俺を慕ってくれているが、告白してこないので友達付き合いが成立している。それはまあどうでもよくて。肝心のノアは、女子3人に遠慮して一歩下がっていた。
 女子3人が口々に「かっこよかった」「成宮くんが一番目立ってた」と褒めてくれる。するとノアも同意してうんうんとうなずく。できればノアの口から直接かっこよかったって言ってほしい。その瞬間を見逃さないようにノアを見つめていたら、健ちゃんが俺に向けてビシリとサムズアップした。

「すげー良かったじゃん。動画撮ったから先生にも送っといた」
「先生って?」

 健ちゃんの言葉にノアが小首を傾げる。この日のためにコーチまでつけて血反吐を吐いたことを知られたくない俺はすかさず話を逸らした。
 
「わざわざうちわ作ってくれたの? ステージからよく見えたよ」
「あ~これ、みんなで作った」

 ノアがうちわをリュックから取り出す。黒地のうちわに、文字は蛍光の青。ラメのハートも散っている。このハートは俺への愛ですか? ノアに愛されてるんですか俺は? 俺が錯乱している間に、女子3人もうちわをかざす。「成宮くんしか勝たん」「指ハートして」「零様3秒見つめて」と書いてある。舞台から、健ちゃんたちの姿は見えていた。うちわも「なんかあるな」とは思ってはいた。でも、俺にはノアしか見えなかった。ノアも俺だけを見てくれていた——はず。
 うちわ作るの楽しかったね、と談笑していた飯田さんが、ふと俺の後ろに目をやる。

「あっちにいるの、成宮くんのお友達?」

 飯田さんの視線を追って振り返ると、柱の影に前園や他のクラスメイトたちがいた。というかもう完全に柱からはみ出している。「ほら! 成宮の彼女略奪すんだろ! 早く行けよ!」「ちょ、まって、眩しすぎてよく見えない……!」「彼女どの子? 全員レベチだが!?」「全員彼女とかいう可能性あるでこれ」「何それ成宮殺すしかないじゃん」とかなんとか言いながら押し合いへし合いしている。紹介する気にもなれない。俺は腕を広げて前園たちからの視線を遮った。

「見ない方がいいよ。あいつら相手が女だってだけではしゃぐから」
「やばい山賊みたい」

 きゃははと笑う女子たちが眩しすぎたらしく、前園や須藤たちが胸を押さえて倒れた。そのまま一生死んでてほしい。

 それからみんなで展示や模擬店を見て回った。どこも盛況だったし、なぜか健ちゃんが女子全員分のタピオカをおごらされたりしていた。
 楽しいっちゃ楽しい。でも俺は今すぐノアに「ソジュンと俺、どっちが好き?」って聞きたくて仕方なかった。ノアだけ連れ去って2人きりになれないかと様子を見ていたら、ノアはなんの気なしに俺へ微笑みかけた。

「僕さ~、妹が夢中だからつられてなんとなくECLIPXのこと好きだったけど、もしれいちゃんがデビューしたら絶対沼って推し活すると思う」
「うぐ……っ!」
「えっ!? どうしたの!? 胸痛い!?」

 急に胸を押さえてよろめいた俺に、ノアが慌てた声を出す。他のみんなも振り向く。「いや、大丈夫、なんでもない」と誤魔化したが瀕死である。なるほど心臓をぶち抜かれるとこうなるのか。
 俺の心臓を撃ち抜いた張本人は「本当に大丈夫?」なんて心配して俺の顔を覗き込んでいるが、大丈夫なはずがない。愛しいノアに推してもらうとか、想像しただけで嬉しくてぶっ倒れそうだ。
 ノアにモテたいという動機だけで頑張ってきた。でも、結局は俺の方がますますノアに惚れただけっていう。
 情けない顛末になってしまったが、これはこれで悪い気はしないのだった。