絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

*side乃碧

「最近彼ぴ来ないね。喧嘩とかした?」

 バイトが終わった後。スタッフルームで。先輩の皆川さんが何気なく放った言葉に、一瞬反応が遅れる。彼ぴ、というのはれいちゃんのことだ。

「喧嘩はしてないけど、文化祭の練習が忙しいらしくて……」
「へー! 彼ぴ文化祭で何やんの? てゆうかどこ高? 文化祭いつ? 一般人も入れる感じ? 私も行きてえわ、友達と行こうかな~」

 皆川さんが繰り出す質問に、しどろもどろに答える。皆川さんの前では、れいちゃんと僕は恋人同士という設定になっている。流れでこうなってしまったのは仕方ないけれど、嘘をつき通すのって地味に疲れる。
 雑談が途切れるのを見計らって、「お疲れ様でした」と挨拶をして帰路につく。
 ついこの前まで夏だったのに、もうすっかり肌寒くなっている。月が明るくて、影の濃い夜だった。
 もうバイトを始めて半年になるし、ひとりの帰り道なんてとっくに慣れた。慣れているのに、考えるのはれいちゃんのことばかり。
 べつに、バイトのときに毎回顔を出してくれる訳じゃない。約束もしていない。だから、れいちゃんがいないのは当たり前のことなのに。僕はうつむいて、自分にくっついてくる影ばかり見てしまう。

 小学生のときの登下校はいつもれいちゃんと一緒だった。中学になって、それぞれの学校に進学してからは離ればなれ。れいちゃんがいない環境に慣れるまで結構時間がかかった。
 僕たちは大人になる。別々の道へ行く。子供のころみたいに「れいちゃんと一緒じゃなきゃやだ!」なんてわがままは通用しない。もうとっくに理解して、納得していたはずのことだった。それなのに今、れいちゃんが隣にいないことに、胸がもやもやする。
 高校生になってから特に、れいちゃんは僕に会う時間を作ってくれている。それはきっと、一人暮らしの僕を心配してくれているから。感謝するのが当然で、文句を言うなんておかしいんだけど。こんな気持ちになるのは。

「れぇちゃんのせいじゃん……」

 れいちゃんが僕を甘やかすから——なんて。小声で囁いてみたものの、全然れいちゃんのせいではない。ただの八つ当たりだ。
 今は家族とも離れて暮らしているし。気弱になっているだけ。そう自分に言い聞かせても、空いた右手がすうすうする。
 いつかの帰り道、れいちゃんと手をつないで帰った。あのときの、手のひらのあたたかさを覚えている。その記憶が鮮明なほど、切ない。僕たちはもう子供の頃には戻れない。
 明るい日向で、当たり前に手をつないではしゃぎまわった日々が遠い。夜の中に、僕はひとりでいる。