「れいちゃんのクラスは何やるの?」
「ダンス」
「えっ、すごい! クラス全員で?」
「うん、メインは選抜メンバーがやるんだけど。来客の女子にモテたくて仕方ないやつがいてさぁ……床に転げて駄々こねるから渋々」
「高1にもなってそんなゴネ方することある?」
「動画見る?」
れいちゃんがスマホの画面を僕に向けて、オープンイヤー型のイヤホンを片方僕に貸してくれる。再生されるなり絶叫が耳をつんざく。画面ではアッシュピンクのインナーカラーを入れているハデな男子が床を転げ回っていた。「おぎゃああアア! ダンスぅ! 真剣にダンスやったら絶対モテるがらぁあン△$♪! おねが※□◇#△!!」と叫びながら教室中を移動する。クラスの人たちもゲラゲラ笑っている。
「なははは! 思ってた10倍駄々こねてる! れいちゃんの学校、頭いい人しかいないはずなのに」
「アホなんだよこいつ、学年一位のくせに」
れいちゃんが深々とため息をつく。大変そうだけれど、この男子校のノリはうらやましいかもしれない。
それで結局、メジャーなK-POPグループのダンスをコピーすることになったらしい。れいちゃんが続けてMVを再生する。僕も知ってる曲だった。
「ECLIPX(エクリプス)だ!」
「……好き?」
「うん。恵麻ちゃんと母さんが好きでライブ行ってた。僕もよく聴く」
ECLIPXは3年前にデビューしたボーイズグループで、妹が先にハマって母も一緒に沼った。リビングのテレビでライブ映像を再生するので、僕も受動視聴しているうちに好きになった。
メンバーは5人。今再生されている『Blue Sparkle』という曲は米ビルボードのシングルチャートで1位を獲得した。親しみやすいメロディライン。思わず踊りたくなる特徴的なダンスパフォーマンス。TikTokでもコピーする人が続出していた。
サビの部分で、何気なく画面を指差す。
「僕はこの人が一番好き」
「——なに? 誰?」
「ソジュン。ほら、この黒髪マッシュでスパイラルっぽいパーマの人」
「ふーん……推し?」
「そこまでじゃないけど」
「でも一番ってことは惹かれる理由があるわけでしょ? 他のメンバーとどう違うの?」
「ん~、なんか一番目を引くというか。ダンス上手いし」
「ノアはダンス上手いやつが好きってこと?」
「えっ、や、そういうわけでもないけど……」
「けど? なに?」
「んえっ? えっ、ええと……???」
僕に質問をしながら、れいちゃんがにじり寄ってくる。僕、なんで激詰めされてるの?
どうしてソジュンが好きかというと。
——雰囲気がなんとなくれいちゃんに似ているから。
ライブ映像を見たときに「れいちゃんがアイドルだったらこんな感じなのかな」って思って。それ以来ソジュンが気になるってだけで——いやこれ面と向かってれいちゃんに説明するの恥ずかしすぎるな。
れいちゃんは答えを強要するように詰め寄ってくる。顔が近い。さっきまで距離の近さなんて気にならなかったのに、急に気恥ずかしくなる。やばい。本当に今更なんだけど顔がいい。瞬間最大かっこいい量が大変なことになっている。なにこの状況。なんか動悸もするし。困惑しながら距離を取ろうとしたら、はずみで蜜芋フラペチーノを倒してしまった。
「わああっ!」
あわてて元に戻す。フタのおかげであまりこぼれなかったけれど、ミケがちょっとだけ汚れてしまった。僕がオロオロしている間にれいちゃんがペーパーナプキンを持ってきてくれる。とりあえず拭いておいて、帰ったら洗濯しちゃおう。
これ以上汚す前にミケをスクバにしまう。れいちゃんの猫を汚さなくてよかった。
「れいちゃんはぬいに名前つけたりしないの?」
「ん……まあ、特に決めてない」
ふと気になって尋ねると、れいちゃんは気まずそうに目をそらした。いい年してぬいぐるみに名前をつけるなんて痛いと思われたかな。
とりあえず「なんでソジュンが好きなのか」という追及から逃れられてよかった。こっそり胸を撫で下ろしていたら、れいちゃんがきりりとした顔で僕に向き直った。
「文化祭、絶対来て」
「んえ? う、うん……」
別に強調されなくても絶対行くけど。れいちゃんのダンス、しかもECLIPXのコピーだなんて、絶対絶対見逃せない。ミケも連れてぬい撮りできたらいいな、なんて考えながら、僕はうなずいた。
「ダンス」
「えっ、すごい! クラス全員で?」
「うん、メインは選抜メンバーがやるんだけど。来客の女子にモテたくて仕方ないやつがいてさぁ……床に転げて駄々こねるから渋々」
「高1にもなってそんなゴネ方することある?」
「動画見る?」
れいちゃんがスマホの画面を僕に向けて、オープンイヤー型のイヤホンを片方僕に貸してくれる。再生されるなり絶叫が耳をつんざく。画面ではアッシュピンクのインナーカラーを入れているハデな男子が床を転げ回っていた。「おぎゃああアア! ダンスぅ! 真剣にダンスやったら絶対モテるがらぁあン△$♪! おねが※□◇#△!!」と叫びながら教室中を移動する。クラスの人たちもゲラゲラ笑っている。
「なははは! 思ってた10倍駄々こねてる! れいちゃんの学校、頭いい人しかいないはずなのに」
「アホなんだよこいつ、学年一位のくせに」
れいちゃんが深々とため息をつく。大変そうだけれど、この男子校のノリはうらやましいかもしれない。
それで結局、メジャーなK-POPグループのダンスをコピーすることになったらしい。れいちゃんが続けてMVを再生する。僕も知ってる曲だった。
「ECLIPX(エクリプス)だ!」
「……好き?」
「うん。恵麻ちゃんと母さんが好きでライブ行ってた。僕もよく聴く」
ECLIPXは3年前にデビューしたボーイズグループで、妹が先にハマって母も一緒に沼った。リビングのテレビでライブ映像を再生するので、僕も受動視聴しているうちに好きになった。
メンバーは5人。今再生されている『Blue Sparkle』という曲は米ビルボードのシングルチャートで1位を獲得した。親しみやすいメロディライン。思わず踊りたくなる特徴的なダンスパフォーマンス。TikTokでもコピーする人が続出していた。
サビの部分で、何気なく画面を指差す。
「僕はこの人が一番好き」
「——なに? 誰?」
「ソジュン。ほら、この黒髪マッシュでスパイラルっぽいパーマの人」
「ふーん……推し?」
「そこまでじゃないけど」
「でも一番ってことは惹かれる理由があるわけでしょ? 他のメンバーとどう違うの?」
「ん~、なんか一番目を引くというか。ダンス上手いし」
「ノアはダンス上手いやつが好きってこと?」
「えっ、や、そういうわけでもないけど……」
「けど? なに?」
「んえっ? えっ、ええと……???」
僕に質問をしながら、れいちゃんがにじり寄ってくる。僕、なんで激詰めされてるの?
どうしてソジュンが好きかというと。
——雰囲気がなんとなくれいちゃんに似ているから。
ライブ映像を見たときに「れいちゃんがアイドルだったらこんな感じなのかな」って思って。それ以来ソジュンが気になるってだけで——いやこれ面と向かってれいちゃんに説明するの恥ずかしすぎるな。
れいちゃんは答えを強要するように詰め寄ってくる。顔が近い。さっきまで距離の近さなんて気にならなかったのに、急に気恥ずかしくなる。やばい。本当に今更なんだけど顔がいい。瞬間最大かっこいい量が大変なことになっている。なにこの状況。なんか動悸もするし。困惑しながら距離を取ろうとしたら、はずみで蜜芋フラペチーノを倒してしまった。
「わああっ!」
あわてて元に戻す。フタのおかげであまりこぼれなかったけれど、ミケがちょっとだけ汚れてしまった。僕がオロオロしている間にれいちゃんがペーパーナプキンを持ってきてくれる。とりあえず拭いておいて、帰ったら洗濯しちゃおう。
これ以上汚す前にミケをスクバにしまう。れいちゃんの猫を汚さなくてよかった。
「れいちゃんはぬいに名前つけたりしないの?」
「ん……まあ、特に決めてない」
ふと気になって尋ねると、れいちゃんは気まずそうに目をそらした。いい年してぬいぐるみに名前をつけるなんて痛いと思われたかな。
とりあえず「なんでソジュンが好きなのか」という追及から逃れられてよかった。こっそり胸を撫で下ろしていたら、れいちゃんがきりりとした顔で僕に向き直った。
「文化祭、絶対来て」
「んえ? う、うん……」
別に強調されなくても絶対行くけど。れいちゃんのダンス、しかもECLIPXのコピーだなんて、絶対絶対見逃せない。ミケも連れてぬい撮りできたらいいな、なんて考えながら、僕はうなずいた。
