絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

 食事を調達して指定席に戻る。テーブルに並べたのは、ピンクのソースがかかったハンバーガーと、サングリア風ソフトドリンク。作り手が「フォトジェニックだろ?」とドヤっている顔が目に浮かぶ。シェフの顔知らんけど。お作法として撮影してからハンバーガーにかぶりつく。

「うわ~さすがホテルのご飯だ~! ちゃんとおいしい」
「塩分強めでいいな。肉もがっつりだし」

 れいちゃんの言うとおり、塩気があるし食べごたえもある。涼しくなってきたとはいえ、泳いだから汗もかいた。しっかり水分と塩分を補給しておかないと。
 もぐもぐしながら辺りを見回す。僕たちの席はプールサイドのすぐ近く。いい場所だよな、と思ってよく見たら、他の席よりも椅子が豪華だ。クッションみたいなのがついてる。れいちゃんは「健ちゃんとこのバイト代で足りる」って言ってたけど、嘘じゃない? 広々してるし、明らかに他の席とは違って特別感がある。装飾もメロくてすごくムードがあるというか。
 同じ区画の席にいる人たちはみんな自然にいちゃついている。ていうか全員イチャイチャしている。なんかおかしくない? と思ってハッとする。

「もしかして、ここってカップルシート!?」
「今頃気づいた?」

 どうりで周りがキスしまくってると思った。れいちゃんは僕の驚きをさらりと流す。

「こっちの方が広くていいと思って。いくら何でもここならナンパされないだろうし」
「ああ……まあ、そうだろうけど……」

 安心が金で買えるならその方がいいんだけど。でもそこまでする? ていうか先に教えといてほしい。文句を言いたくてもごもごしている僕をよそに、れいちゃんは熱心にプールを見ていた。カップルシートに一番近いプールはチルゾーン。フラミンゴの形をした浮き輪や、「ヴィーナスの誕生」に出てくる大きいホタテ貝みたいなフロートに乗った人たちがプカプカ浮かんでいる。
 
「俺たちもアレ使お」
「え~! 浮かれすぎでは!?」
「いいじゃん、せっかくだし。なんかいい感じのやつ借りてくる」

 一足先に食事を終えたれいちゃんは、有無を言わさず浮き輪を借りに行ってしまった。ホタテだったらどうしよう。僕が乗ったら完全にギャグじゃん、と思いつつ周囲を眺める。
 夜が深まって、照明がより強く輝き出す。金色の光が水面にきらめいて、シャンパンの泡みたいだ。お酒を飲めなくても酔えるし、この光の中にいる人は誰しも主役になれる。そんな中でもやっぱり一番特別に見えるのは、れいちゃんだ。
 もともと格好いいれいちゃんは、ここのところ格好よさが加速している。特に、僕と2人でいるとき。からかってきたり、ふざけたことも言い合うけれど、なんだか雰囲気が甘い。それこそカップルシートにいる恋人みたいな距離感になる時がある。それって、つまり。
 ——僕が相手だからって、油断してるんだよなあ。
 れいちゃんは僕のことなんか、全然意識してないから気軽に「恋人のふりして」なんて言えるわけで。いや僕だって意識してないけど。幼なじみの僕だからこそ耐えられるだけで、普通だったら男女関係なく惚れてしまう。そこのところ、もうちょっとわかってほしいんだけどな。そう思いながられいちゃんの方を見る。フラミンゴの浮き輪を片手に抱えたれいちゃんは、またしても女の人に声をかけられていた。
 よし。僕の出番だな。僕は横からそっと接近して、れいちゃんの腕に抱きついた。

「すいません、僕の彼氏に何か用ですか?」

 やけくそで微笑んで、女の人たちに向き合う。派手な水着を着た2人の女の人は、僕の登場にちょっとだけ驚いた顔をしてから、朗らかに笑った。

「あ~ごめんごめん、普通に勘違いするわな」
「大丈夫、うちらも恋人同士だから」
「あっ!? そうなんですか!?」

 そうそう、と頷きながら、女の人たちはれいちゃんに向けていたスマホの画面を僕にも見せてくれた。

「君たちカップルシートにいたでしょ? 今度渋谷でイベントあるからさ、よかったらと思って」

 言葉通り、画面は同性愛者向け交流イベントの告知だった。僕たちのことを気にかけて誘ってくれたらしい。「よかったら来てね」「プール楽しんでね」と言いながら去っていく女の人たちに手を振る。僕はほっと息をついて、れいちゃんに顔を向けた。

「えへへ、またナンパだと思ったら勘違いだった」

 ごまかしまぎれに笑いながら、れいちゃんの腕から離れる。れいちゃんは僕から顔を背けて、口元を手で覆ってぷるぷると細かく震えていた。耳が赤い。滅多に見ない、れいちゃんのこの反応って。まさか。
 
「えっ!? もしかして照れてる!?」
「いや……ノアの方から『僕の彼氏』とか言うとは思わなくて……なんか……」
「は~!? なんかってなに!? 僕から言うとなんか文句あるってことですか!?」
「いや違う……ちょっと待って、文句じゃないから……」

 僕の方こそちょっと待ってほしい。だって僕とつきあってるとか言い出したり、カップルシートを予約したのはれいちゃんじゃん。れいちゃんから始めた物語じゃん。そのくせ僕の発言に照れるってことは。
 ——多少は僕のことを意識してる、とか。
 いやいやまさか! ないない、そんなわけない! そんなわけないのに、僕もめちゃくちゃ恥ずかしくなってしまって。顔を赤くして、プールサイドで2人して押し黙る。れいちゃんが抱えているフラミンゴの浮き輪だけが浮かれた顔をして、光の渦の中できらきら輝いていた。