絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

 暗くなるにつれて人も増えていく。みんな大人だ。多分仕事終わりの人たち。撮影用のプールは人がいっぱいになっている。僕たちがいる遊泳用のプールにも人が増えてきた。一通り泳いだし、そろそろ何か食べようということになって、僕たちはプールから上がった。
 軽く体を拭いてTシャツを着てから、きらめくプールサイドを横切ってフードワゴンの方へ歩いていく。きわどい水着を着ている人がいたらどうしよう、と思っていたのは完全に杞憂だった。むしろ普通の服みたいな、布地が多い水着の人が多い。
 こうして改めて見回してみると、この場の八割が顔整いだ。僕はもちろん二割のマイノリティ。なんとなく肩身が狭いような気がするけど、みんな自撮りに夢中で周りなんか見ていない。自分に夢中で他人に興味がないのは都会のいいところ。僕も変におどおどしないで背筋を伸ばした。

 フードワゴンの列に並んでメニューを物色する。普通のプールで売ってるようなポテトとかコーラとか、そういうのはない。映え重視。そしてお高い。こういうところのご飯は割高でも仕方ないよね、という話をしていたら、後ろに並んでいた人たちに声をかけられた。

「すいませ~ん。写真撮ってもらっていいですか?」

 2人連れの女の人たちは、明らかにれいちゃんに向かって話している。
 経験として、僕は知っている。れいちゃんに「写真撮ってください」と依頼してくる女の人の九割はナンパ目的だ。女の人の片方が無防備にれいちゃんへスマホを差し出す。赤の他人にスマホを預けられるのすごい度胸だな、といつも思う。れいちゃんは真顔で受け取って、ポーズをとる女の人たちを撮影する。スマホを返して用事はおしまい、とはもちろんならない。女の人たちは、れいちゃんに特大級の笑顔を向けた。

「ありがとう~。君たち大学生?」
「いえ、高校生です」
「え~うちらも! 3年?」
「1年です」

 れいちゃんの塩っ気の多い対応にもめげず、女の人たちはテンション高く「そうなんだ~」「かわい~」と声を上げる。れいちゃんは最低限の返事しかしないし、僕の方には話を振られない。それでも「夏休み中だよね」「ナイトプールってよく来るの?」「うちらは3年生で」と話がつながっていってしまう。

「今日は友達同士で来た感じ?」

 その質問を待っていましたとばかりに、れいちゃんは僕を抱き寄せた。

「俺たちつきあってるんで。恋人同士で来ました」

 にっこり笑うれいちゃんに合わせて、僕もぎこちなく笑う。女の人たちは一瞬だけ「えっ」という顔をしたけれど、すぐに「そっか~」「かわいいね~」「お幸せに~」と笑顔で返して、それ以降話しかけてくることはなかった。
 ナイトプールに来る途中、「もしナンパされそうになったらつきあってる設定でよろしく」と事前に言われていたから、心の準備はできていた。でも今ってフードワゴンの列に並んでる状態なので。その場からすぐに離れることができないから、恋人同士のふりを続けなくちゃならない。
 抱き寄せられたままで落ち着かない。れいちゃんはいつにも増してニコニコして、至近距離で僕の顔を覗き込む。

「なに? 照れてる?」
「照れてません~! 彼氏なんだから奢ってくれますぅ~!?」
「いいよ。なんでも好きなの頼んで」

 れいちゃんはあくまで余裕だ。気恥ずかしい気持ちになるのは僕だけ。
 照れてないと言ったけど、正直めちゃくちゃ照れている。だってこの顔面国宝の恋人が僕ってさあ。そりゃ女の人たちも「えっ」てなるよ。
 まあ、でも、気にすることない。みんな他人にそこまで興味がない。後ろに並んでる人たちも、もう全然僕たちのことなんか気にせず自撮りしている。
 僕の肩を抱いたままのれいちゃんは、いつになく嬉しそうにしている。れいちゃんが安心して過ごせるなら、恋人のふりぐらいお安いご用だ。——ごはんは奢ってもらうから、お安くはないかもだけど。