絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

*side乃碧

 バイト代でプールに行こう、って約束してたけど。まさかこんなことになるとは思わなかった。

「れぇちゃん、あのさぁ……」
「うん? どうかした?」
「いや、なんか、こういうところって……僕たちまだ高校生なのに、いいのかな」
「大丈夫だって。このくらい、みんな普通にしてるから」

 立ち止まってしまった僕の背中を、れいちゃんが優しく撫でる。それでも足を踏み出せない。
 だって、ここは都内の高級ホテル。僕みたいな一般庶民の高校生が足を踏み入れていい場所じゃない。
 れいちゃんが僕を引き寄せる。すぐ後ろに来ていた、男女のカップルらしき二人連れが奥へと進んでいく。僕は通行の邪魔になっていたらしい。

「どうしても無理なら帰ればいいんだし、とりあえず行こう」
「うん……」

 れいちゃんに背中を押されて、僕たちも先へと進む。ホテルの立派な建物の横。遊歩道を抜けた先。そこは美しくライトアップされたナイトプールだった。
 プールサイドにはDJブースがあって、軽快なクラブミュージックが流れている。他にもバーカウンターがあったり、フードワゴンがあったり、おしゃれなフォトスポットがあったり。何もかもがキラキラしていて、地味で平凡な僕は明らかに浮いていた。
 日中は暑いからナイトプールにしよう、ってれいちゃんに言われたとき、僕も賛成した。僕はてっきり、レジャー施設の、もっと大衆的な感覚のナイトプールに行くんだとばかり思っていた。でもれいちゃんのパパがこのホテルの会員権を持ってるとかで。ナイトプールを優待価格で利用できるって言うから、「やったお得じゃん」って思ってしまったのだ。まさかこんなにも大人な雰囲気だとも知らずに。
 不安すぎて、れいちゃんのラッシュガードの袖をきゅっと握る。れいちゃんは僕を安心させるように微笑んで、指定席のデッキチェアにタオルを置いた。

「大丈夫だって。こんなの派手なだけで、普通のプールじゃん」
「普通ではなくない!? なんか丸くて光ってるやつとかフラミンゴとか浮かんでるし」
「まあなんか浮かんでるけど、水はどこのプールも一緒だよ。泳ご」

 そう言いながられいちゃんは軽く準備運動をして、するりと水の中に入っていってしまった。
 時間は18時。陽は傾いてきている。それでもまだまだ暑くて、じっとしているだけで汗が吹き出してくる。そんな僕を誘うように、網目状に光る水面が揺らめいている。「おいで」と言わんばかりに僕に向かって手を伸ばしているれいちゃんにつられて、僕も水辺に近づいた。
 プール選びをれいちゃんに任せっきりにしてたんだから、文句を言うのは良くないし。大体もう利用料払っちゃったし。水着に着替えてるし。今更やめるとかない。
 雰囲気にびびってしまったけど、大丈夫。プールにつま先を入れると、冷たすぎなくて、ぬるくもなくて、肌になじむ温度だった。ゆっくりと胸元まで水に入る。

「は~……気持ちいい……」

 思わず声が出てしまう。ひんやりとした感覚に包まれて、酷暑でほてった体が弛緩する。プールって最高。気持ち良さを噛みしめていたら、れいちゃんがなんか丸くて光ってるやつを僕に向かって投げてきた。

「ウワー! これ投げていいの!? 爆発しない!?」
「爆発物がプールに浮かんでるわけないだろ」
「わかんないよ!? 浮かれたやつから死んでいくシステムかもしれない」
「はは、なんだそれデスゲームみたい」
「あのDJブースの後ろにあるでっかいスクリーンにさ、デスゲームの主催者が映って」
「そしてあのホテルの高いところから金持ちが見物するっていう」
「そうそう、やろうと思えばできなくはない」
「やばいな。俺たち頑張って生き延びよう」

 アホみたいなことを言い合いながら、なんか丸くて光ってるやつをパスする。少し重めだけれど、持った感触は普通のビーチボールとほぼ同じ。しばらく光るボールで遊んでから、今度はプールの端から端まで泳ぐ。
 れいちゃんの言う通り、入ってしまえば普通のプールだ。日差しが和らいでいるから泳ぎやすいし、小さい子供がいないから気を使わなくて済むし。仰向けになって水面にぷかりと浮かぶと、夕暮れの空が目に染みるみたいだった。輝く茜色と、濃さを増していく青のグラデーション。天然のライトアップに溶け込むように、プールの照明も輝きを増していく。ナイトプール、もしかしたら最高かもしれない。