絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

*side零

 終業式を終えて、明日から夏休み。
 そこそこに混雑した電車内から窓の外を眺める。ギラついた日差しが目に痛い。まだ夏は始まったばかりだというのに気温は早くも35℃超。冷房の効いた電車内にいても、人が放つ体温にうんざりしてしまう。
 それでも気分は悪くない。酷暑だけど夏休み。ノアと2人でどこへ行こうか、考えただけで口元がほころんでしまう。
 期末試験の結果も上々。テスト前に前園と須藤に作らせた模擬テストの出来が良かったおかげでもある。「幼なじみとつきあっている」という発言をしたせいで「幼なじみの写真あるだろ見せろよクラスLINEに流すから」「この猫ちゃんのぬいをスクバにつけ始めた時から怪しいと思ってたんだよ」とうざ絡みされているが、2人がうざいのはいつものことなのでスルーしている。
 ちなみに前園も須藤も「街角キューピッド」でマッチングをして女子と連絡先を交換することに成功した。前園は3日でブロックされて、須藤の相手は他の男子とつきあう事になってやり取りは終了となった。無念。
 そういえば、あの日。インフルエンサーのレオンにインタビューされた時の動画がかなりバズっている。あまりに好評なので、レオンから「カップルでインタビューさせてほしい」と申し出があったが断った。そもそもつきあってるとか嘘だし。
 まさかあんなにもバズるとは思わなかった。もしかしたらノアの目にも入るかもしれない。今のところノアからは何のリアクションもないけれど、俺の方から「俺が出てる動画見た?」とか聞くのもな。
 もしノアの方から「見たよ!」って話を振ってくれたら——あれはノアのことで、全部本気で言ってるから。ずっと好きだった——って伝えられる勇気があればこんなに悩んでねえんだよクソッ。
 ヘタレすぎる自分に悪態をついている間に、電車は自宅の最寄駅に到着した。家に着いたらノアにLINEしようかな、なんて考えながら改札を通り抜ける。しばらく歩いてから、視界の端にふと慣れ親しんだ人影を捉えた。駅前広場を挟んだ向こう側、街灯が邪魔で一瞬しか見えなかったけれど、間違いなくノアだ。
 ノアも今日が終業式だと言っていた。私服みたいだし、一旦自宅に帰って買い物にでも出てきたのかも。俺は方向転換してノアの方へ向かった。
 俺は電車通学で、ノアは自転車通学。帰り道で会えることは滅多にないから、嬉しくて足が速まる。でも、近づくにつれてふと気づく。ノアはひとりじゃない。白いタンクトップを着た、大柄なドレッドの男と一緒にいる。
 誰だ、といぶかしんでいる間にドレッドの男がノアの襟首を掴んだ。それを見た瞬間、俺は後先考えずノアに向かって全力疾走していた。ドレッドの男を突き飛ばすようにして無理やり間に割って入って、ノアを背中に庇う。

「わっ! れいちゃん!?」

 俺の背中でノアが驚いた声を上げる。ドレッドの男も俺を見て目を丸くして——その顔には見覚えがあった。

「あっ! 健ちゃん!?」
「おわ、なんだ、零ちゃんじゃん、久しぶり。いきなりどした?」
「お、おお……久しぶり。色々すごいな」

 ドレッドの男の正体は健ちゃんだった。地元の友達で、小学生の頃は俺が苦手な牛乳をこっそり飲んでくれていた。学校が別になってもちょいちょい遊んでいたが、髪型が違いすぎてわからなかった。あと体格。中学に入ってからダンスを始めて、体を鍛えているとは聞いていたけれど、まさかここまで仕上がっているとは。むき出しになっている首筋や腕はバキバキで、ダンサーというよりは格闘家みたいだ。
 健ちゃんは人懐こい顔でにかっと笑い、ロープの束みたいになった自分の髪を指差した。
 
「似合うっしょ? このために必死こいて髪伸ばしたんだよ」
「うん、似合うけどびびった……ノアが不良にカツアゲされてんのかと思った」

 正直にそう告げると、健ちゃんは深々とため息をついた。

「いじられてんのは俺の方だよ。やっと理想の髪型にできたのに、人のことマフィアだの人さらいだの……まあ、この髪型にしてから5回ぐらい職質されてるけど……」

 俺の背中に隠れたままのノアがげらげら笑っている。なるほど、ノアにいじられすぎた健ちゃんがキレたのか。
 健ちゃんは商店街にある豆腐屋の倅だ。今は商業高校に通っているはずだが、校則はかなり緩いらしい。俺の学校も大概緩いが、流石にドレッドはいない。
 襟首を掴まれていたのにノアはまだ懲りていないらしく、さらに健ちゃんをいじり倒す。

「だってどう考えてもゴツすぎるって。やばいものを売り捌いてる人にしか見えないよ」
「売ってるのは豆腐だよ!」
「末端価格いくら?」
「一丁八十円だよ! マジでシメるぞお前」

 ノアは俺の背中に隠れたまま笑っている。俺は素早くノアの背後に回って羽交締めにした。

「いいよ、健ちゃん、やっちゃいな」
「あー! れいちゃんが裏切った」
「普通にノアが悪いから」

 差し出された生贄に、健ちゃんが指の関節をポキポキと鳴らす。そうしてすっと指先でノアの脇腹をくすぐった。

「わー! 待って! それだけはマジで待って! うひひひひごめんなさい! んはははは!!」
「うるせー! 笑い死ね!」

 超くすぐったがりのノアを処刑するときによくやっていたこの悪ふざけ。小学生以来だ。
 そろそろ健ちゃんの気も済んだかな、というタイミングで解放してやると、ノアは「うひひひまじでしぬ……」と半笑いのまま俺の足元にしゃがみ込んだ。そんなノアを見下ろしながら健ちゃんがため息をつく。