絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

 勉強会を終えてカフェの外に出ると、雨はいつの間にか止んでいた。

「ばんから行こうよ」
「カフェでカレー食ってたやつがなんか言ってる」
「貴様それでも男子高校生か? ラーメンは別腹に決まってるだろ?」
「そうそう、カレーもラーメンも飲み物だから」
「知らんて」

 詰め寄ってくる前園と須藤を押し返したが、寺田くんはラーメンという言葉に瞳を輝かせた。まあ、勉強のほうも捗ったし。たまにはいいか。じゃあラーメンを飲みに行こう、という方針が固まったところで横合いから声がかかった。

「すいません、君たち、ちょっといい?」

 ツーブロにピアスのイケメンが俺たちに向かって手を振っている。一見怪しいその青年に、真っ先に反応したのは須藤だった。
 
「あっ! レオンさん!?」
「知ってくれてるんだ~! そうですレオンです! 今ね、街中キューピッドやってるんだけど。どうかな、君たち動画出てくれる? 学校とか大丈夫そ?」

 レオンと名乗った青年の他には、カメラマンらしき青年がひとり。レオンのことなら俺もうっすら知っている。恋愛相談系のインフルエンサーで、前園と須藤がフォローしている。これは動画の撮影交渉らしい。
「街中キューピッド」というのは、2人がTikTokでしょっちゅう見てるマッチングのお手伝い企画。まずは一緒に街中を歩いて、気になる相手を見つける。そうしたらレオンが代行して好みの相手に声をかける。相手に脈ありか脈なしか尋ねて、脈ありなら連絡先を交換する、という流れだ。インフルエンサーのレオンが間に挟まることで、連絡先の交換まで至る確率はかなり高い……らしい。
 この辺で撮影していたとは知らなかった。俺も寺田くんも怯んで一歩下がったが、前園と須藤は威勢良く前に進み出た。

「俺、彼女ほしいっすね!」
「俺も! なにがなんでもほしいすね!」
「君たち顔いいのにすごいがっつくね!?」
「男子校なんすよ」
「地獄ってルビふってもらっていいすか?」

 初対面のレオンに2人とも秒で打ち解けている。うちの学校は校則がゆるいので、個人情報を漏洩したり誹謗中傷をしない限り咎められることはない。だからまあ大丈夫だろうな、と思って静観する構えでいたら、不意にカメラが俺の方を向いた。
 
「そっちの君は……君は!? ちょっとかなりレベチじゃない? 芸能事務所入ってる?」
「いえ特には」
「そうなの? 普通に付き合ってる子いる?」

 めんどくさいな、映りたくない、と思ったが。「付き合ってる子」と聞かれて願望が口をついて出た。

「幼なじみと付き合ってます」
「おい待てよ」
「初耳」

 前園と須藤が鬼の形相で俺に詰め寄ってくる。その様子を見たレオンは、笑いながら俺にインタビューを開始した。
 
「じゃあお友達に紹介するためにもね、幼なじみの好きなとこを10個言ってください。はいどうぞ!」
「あっ、はい。じゃあ……
 1. 小さい時からずっと俺のこと好きでいてくれるとこ。
 2.他の友達より俺のこと優先してくれるとこ。
 3.甘える時だけ舌ったらずになるとこ。
 4.美味しそうに食べるとこ。
 5.絵が上手い。
 6.笑い声がかわいい。
 7.料理が上手。
 8.お年寄りにやたらと気に入られて可愛がられるとこ。
 9.当たり前に他人に親切にできるとこ。
 10.泣きそうなの我慢してる時のへの字口がマジかわいい。
 11.率直に顔がかわいい。
 12.歌が下手だけど楽しそうに歌うとこ。
 13.綺麗好きでよく掃除してるけど神経質ではないとこ。
 14.集中してると口がちょっと半開きになるとこ。
 15.声もかわいい。
 16.家族思いなとこ。
 17.猫っ毛だけど撫でるとサラサラで――」
「ちょっ、待って、勢いやばいて。無茶振りしたのに淀みなく出てくるね!?」
「まだありますけど」
「まだいけるんだ!? 思った以上のラブラブぶりでびびった~。お友達のみんなはどう思う?」

 レオンに止められなければあと100個は言えた。前園たちの方を見ると、地獄の餓鬼みたいな顔をして俺を睨んでいた。

「俺たちに無断で幼なじみといちゃついてたとか許せねぇ……」
「懲役300年」
「あっ、あっ、アオハルだぁ……!」

 寺田くんだけが俺を祝福するように拍手をしてくれた。いいやつだな寺田くんは。
 その後はレオンと連絡先を交換し、前園と須藤だけがマッチングに挑んだ。「お前の幼なじみよりかわいい子と連絡先交換してやるからな!」「絶対吠え面かかせてやる!」と意気込む2人の健闘を祈りつつ、俺は寺田君とラーメン屋に向かった。
 ノアの好きなところを百個言えても、本人に面と向かって言う勇気がなかったら意味がない。いつか、ちゃんと伝えられるようになりたい。そう思いつつ、今日のところは味玉つけ麺で英気を養った。