気を取り直して今日の授業内容をおさらいしていく。
窓を打つ雨の音。店内に流れるジャズ。客が歓談する声。人の気配。コーヒーの匂い。こういうささやかなノイズがある方が集中しやすい。ガチでうるさいのは前園と須藤だけだ。
「わかる? 今までは成宮・前園・須藤の頭文字をとっても『なます』にしかならなかったわけ」
「チームなます……渋すぎるよね……」
「ところが寺田くんの加入により?」
「なます+て……ナマステ!?」
「そう! 俺たちはナマステ団を名乗る資格を得たってコトですよ!!」
「ナマステ団! ええやん! Tシャツ作ろ」
「いいね! カレーも食お! こいつは忙しくなってきやがったぜ!」
2人の会話にちょっと興味を引かれるのが悔しい。だが少しでも反応を示してしまえば奴らの思う壺だ。俺は完全無視を貫こうとしたが、寺田くんが引っかかってしまった。
「……えっ、ぼ、僕も? な、仲間に入っていいの……?」
「もちろん! 寺田くんがいてこそのナマステ団だから! 一緒にカレー食おうぜ!」
「食おうぜじゃねえよ、うるせえからお前らはCoCo壱にでも行ってろ」
「ところがどっこい、この店にもカレーはあるんだな。俺はキーマカレーにしよ」
「じゃあ俺はバターチキンカレー! カフェのカレーとかオシャレじゃね? モテたらどうしよう……」
「それな。ナンパされた時に備えてシミュレーションしておかねえと」
前園と須藤はうわごとを口にしながらオーダーカウンターへ向かった。寺田くんは一瞬迷った顔をしていたが、俺と一緒に勉強を再開した。義理堅い性格のようだ。
俺も別に勉強が大好きというわけでもない。前園と須藤と一緒にふざけるのも悪くはないと思う。せっかく中学受験を乗り越えたんだし。よほど落ちこぼれない限り、高校卒業後は併設大学へ内部進学できるわけだし。だけれど行きたい学部を選ぶために評定平均4.5以上は確実にほしい。
目標にしているのは医学部。医者をやっている祖父母にも父にも、医者になれとは言われていない。
でも、俺は、ノアの期待を裏切りたくない。
――れいちゃんは頭がいいから、何にでもなれるね。
小学生の頃。ノアにそう言われた俺は「何にでもって、例えば何?」と尋ねた。そしたらノアは真顔で「大統領」と答えた。
流石に大統領にはなれないが、大学の学部ぐらいは選べるようになりたい。今のところは医学部狙いだけれど、ノアに「弁護士ってかっこいいよね」って言われたら法学部を目指す。
ノアにかっこいいって思ってもらえるためならなんだってする。勉強だけじゃなくて、人として。かっこ良くなりたい。そのための努力は惜しまない。
そんなことを考えながら集中を深めていたのに、にじり寄ってきた前園のスマホのせいで気が散ってしまう。俺はクソデカため息をついて前園を睨みつけた。
「動画撮るなよ」
「だって成宮撮るとバズるから。友達がレベチシリーズも10本目になりました」
「なりましたじゃねえよ。無断で投稿するな」
「いいや! 承認欲求を満たすためならなんでもやるよ俺は!」
「……はっ、犯罪者予備軍みたいなこと言ってる……」
寺田くんが引いている。俺ももちろん引いている。
前園はしょっちゅう動画を撮ってはTikTokに投稿している。自撮りのさすらいは全然伸びないが、俺の姿を勝手に撮って「友達の顔面偏差値が高すぎる」とタイトルをつけて投稿したらバズったらしい。無許可で投稿するとか倫理観が死んでいる。普通に通報案件だが、まあ利用できなくもない。
「期末の問題。全教科予想してくれたら投稿してもいいよ」
「まかせとけ、先生よりいい問題作ってやるから」
俺が出した条件に、前園は嬉々としてノートを広げた。前園につられて須藤も問題作成に取り掛かる。クズに頼るのは悔しいが、俺とノアの輝かしい未来のための踏み台だと思えばいい。2人がオーダーしたカレーの匂いに妨害されながらも、俺たちは学生らしく勉強に勤しんだ。
窓を打つ雨の音。店内に流れるジャズ。客が歓談する声。人の気配。コーヒーの匂い。こういうささやかなノイズがある方が集中しやすい。ガチでうるさいのは前園と須藤だけだ。
「わかる? 今までは成宮・前園・須藤の頭文字をとっても『なます』にしかならなかったわけ」
「チームなます……渋すぎるよね……」
「ところが寺田くんの加入により?」
「なます+て……ナマステ!?」
「そう! 俺たちはナマステ団を名乗る資格を得たってコトですよ!!」
「ナマステ団! ええやん! Tシャツ作ろ」
「いいね! カレーも食お! こいつは忙しくなってきやがったぜ!」
2人の会話にちょっと興味を引かれるのが悔しい。だが少しでも反応を示してしまえば奴らの思う壺だ。俺は完全無視を貫こうとしたが、寺田くんが引っかかってしまった。
「……えっ、ぼ、僕も? な、仲間に入っていいの……?」
「もちろん! 寺田くんがいてこそのナマステ団だから! 一緒にカレー食おうぜ!」
「食おうぜじゃねえよ、うるせえからお前らはCoCo壱にでも行ってろ」
「ところがどっこい、この店にもカレーはあるんだな。俺はキーマカレーにしよ」
「じゃあ俺はバターチキンカレー! カフェのカレーとかオシャレじゃね? モテたらどうしよう……」
「それな。ナンパされた時に備えてシミュレーションしておかねえと」
前園と須藤はうわごとを口にしながらオーダーカウンターへ向かった。寺田くんは一瞬迷った顔をしていたが、俺と一緒に勉強を再開した。義理堅い性格のようだ。
俺も別に勉強が大好きというわけでもない。前園と須藤と一緒にふざけるのも悪くはないと思う。せっかく中学受験を乗り越えたんだし。よほど落ちこぼれない限り、高校卒業後は併設大学へ内部進学できるわけだし。だけれど行きたい学部を選ぶために評定平均4.5以上は確実にほしい。
目標にしているのは医学部。医者をやっている祖父母にも父にも、医者になれとは言われていない。
でも、俺は、ノアの期待を裏切りたくない。
――れいちゃんは頭がいいから、何にでもなれるね。
小学生の頃。ノアにそう言われた俺は「何にでもって、例えば何?」と尋ねた。そしたらノアは真顔で「大統領」と答えた。
流石に大統領にはなれないが、大学の学部ぐらいは選べるようになりたい。今のところは医学部狙いだけれど、ノアに「弁護士ってかっこいいよね」って言われたら法学部を目指す。
ノアにかっこいいって思ってもらえるためならなんだってする。勉強だけじゃなくて、人として。かっこ良くなりたい。そのための努力は惜しまない。
そんなことを考えながら集中を深めていたのに、にじり寄ってきた前園のスマホのせいで気が散ってしまう。俺はクソデカため息をついて前園を睨みつけた。
「動画撮るなよ」
「だって成宮撮るとバズるから。友達がレベチシリーズも10本目になりました」
「なりましたじゃねえよ。無断で投稿するな」
「いいや! 承認欲求を満たすためならなんでもやるよ俺は!」
「……はっ、犯罪者予備軍みたいなこと言ってる……」
寺田くんが引いている。俺ももちろん引いている。
前園はしょっちゅう動画を撮ってはTikTokに投稿している。自撮りのさすらいは全然伸びないが、俺の姿を勝手に撮って「友達の顔面偏差値が高すぎる」とタイトルをつけて投稿したらバズったらしい。無許可で投稿するとか倫理観が死んでいる。普通に通報案件だが、まあ利用できなくもない。
「期末の問題。全教科予想してくれたら投稿してもいいよ」
「まかせとけ、先生よりいい問題作ってやるから」
俺が出した条件に、前園は嬉々としてノートを広げた。前園につられて須藤も問題作成に取り掛かる。クズに頼るのは悔しいが、俺とノアの輝かしい未来のための踏み台だと思えばいい。2人がオーダーしたカレーの匂いに妨害されながらも、俺たちは学生らしく勉強に勤しんだ。
