絶対に告白させたい×絶対に告白しない幼なじみ

*side乃碧

 なんで牛乳を飲まなくちゃいけないのかわからない。
 だっておかしくない? あれは牛のお母さんが牛の赤ちゃんにあげるものなのに、人間が横取りするなんて。牛の赤ちゃんがかわいそうなので僕は飲みません。
 ――そんな精一杯の理論武装も空しく、給食の牛乳を残してしまった小学三年生の僕は居残りを命じられていた。
 二年生までは飲まなくても許してもらえたのに、三年生になってからは方針が変わった。新しい担任の先生は給食のお残しを許さない。
 全部飲みきるまで帰ってはいけない。しかも同じ班の子たちも連帯責任だと言われて、僕の巻き添えで一緒に居残りさせられていた。
 自分の席に座り、机の上に置かれた牛乳パックを見つめているだけの僕を、みんなが取り囲んでいる。

「ほら、ノア。早く飲んじゃえよ。みんな待ってるんだからさ」

 れいちゃんが僕の背中をぽんぽんとたたく。僕は「うん」とうなずきはしたけれど、どうしてもストローに口をつけられない。ついに忍耐力の限界に達した健ちゃんは、僕の机の脚を蹴とばした。

「いつまで待たせんだよ、牛乳ぐらいさっさと飲め!」
「蹴るのはナシ」
「大丈夫だよ、鈴木くん。がんばって」

 れいちゃんも同じ班の女の子たちも、健ちゃんをなだめて僕を応援してくれる。それでも顔には「早く帰りたい」と書いてあった。
 みんなに迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、それでもこんな生臭いものを全部飲みきるなんて絶対に無理。だって牛の体液だよ? 気持ち悪くない? みんなどうして平気なの? なんで給食の飲み物は牛乳だって決まってるの? パンはまだしもお米に牛乳なんておかしいじゃん。お茶ならなんにでも合うのに。
 頭の中で文句を言うだけで牛乳に手をつけようとしない僕に、健ちゃんはうんざりとため息をついた。そんな健ちゃんの耳元でれいちゃんが何事か囁く。すると健ちゃんはにやりと笑った。

「じゃあさ、好きな子の名前を言え。そしたら代わりに俺が飲んでやるから」

 健ちゃんが意地悪く笑って僕の牛乳を手に取った。女の子たちは「駄目だよそんなズルしたら」「かわいそうだよ」と言いながらも本気で止める気はないらしく、興味津々に成り行きを見守っている。れいちゃんに視線で縋ると、ズルの発案者は天使みたいな顔でにこにこと微笑んでいた。
 先生の言うことを聞かなきゃだめだとは思うけど。でもこれ以上みんなを僕の罰に付き合わせるのも申し訳ないし、ちょっと恥ずかしい思いをするぐらいで牛乳を飲まずにすむなら、そっちの方がいい。

「えっと……ぼ……僕の、好きな子は……」

 きゃあ、と女の子たちが嬉しそうな悲鳴を上げる。照れくさいけど、仕方ない。言うしかない。

「僕は、れいちゃんが好き!」

 気恥ずかしさを振り切ってそう叫ぶと、みんな静まり返ってしまった。
 何か変なことを言ってしまっただろうか。うろたえる僕に、健ちゃんがぽかんとした顔で尋ねる。

「――マジで?」
「うん、そうだけど……」

 僕が一番好きなのはれいちゃんだ。
 頭が良くて運動も出来て、クラスで一番の人気者。たまに僕に意地悪するけど、なんだかんだでいつも助けてくれる。
 本人を目の前にして改まって言うのは恥ずかしい。でも、れいちゃんは僕の憧れだ。
 正直に言ったのに、なぜか気まずい雰囲気になってしまった。でもちゃんと答えたんだから約束通り牛乳は飲んでよね、と言う前に、れいちゃんが笑い出した。

「あはは、ノアは俺のこと好きなのか~! あはは、マジでか~!」

 れいちゃんにつられてみんなも笑い出す。なんで笑うのかわからないけど、れいちゃんが楽しそうでよかった。

「なんだよ鈴木~、お前そっちの人なの?」

 健ちゃんの言葉に首を傾げる。そっちってどっちだろう。よく分からないけどみんな笑ってるし、健ちゃんも約束通り牛乳を飲んでくれたから、それ以上は深く考えずに僕も一緒になって笑った。
 その後。遅まきながら恋愛感情というものを理解した僕は「あの時の好きはそういう意味じゃなかったんだよ!」と弁解したけれど、僕がれいちゃんを好きだと言ったことは他のクラスにまで知れ渡ってしまっていた。僕が何を言っても誤解は解けず、卒業するまでいじられ続けた。