禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 しかし、そのすぐ後を、影のように追う者がいた。

 和臣だった。

 彼は応接間で不自然に立ち上がり、
 皆の視線が自分に集まるのも気にせず、そのまま雪乃の後を追ったのだ。

 武虎は一瞬驚いたが、息子の必死の表情に気づき、黙って見送った。

 和臣は声が出ない。
 呼び止めることも、大声で雪乃を庇うこともできない。

 けれど。

 廊下を進む雪乃の細い影を、彼は迷いのない足取りで追いかけた。

 その背中を見て、櫻子の顔から表情が消える。
 次の瞬間、嫉妬の熱がどろりと湧きあがった。

(私の婚約の話の最中に、あの子の後を追う? どういうつもりなの、和臣様)

 紅を引いた唇が、わずかに歪む。

 和臣が廊下に飛び出せば、雪乃が障子にもたれ、肩を震わせて泣いていた。

 和臣は迷わずその前にしゃがみこみ、声が出せない代わりに、そっと雪乃の肩に触れた。

 雪乃はびくりと震える。

「和臣様?」

 涙を浮かべた瞳が彼を映し、その瞬間、和臣の胸はまた痛んだ。

 言葉にできれば、何度でも大丈夫だと言いたかった。

(泣かないでくれ)