禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 雪乃は静かに床へ手をつき、こぼれた茶の雫を拭き取り続けていた。
 背筋はまっすぐだが、その肩は小さく震えている。

 櫻子はその様子を横目で見ながら、美しく微笑んだまま、節子へと話を向けた。
「本当に、困ってしまいますわ。雪乃ったら昔から男の人を見ればすぐ近づいてしまう癖があって。和臣様があまりに素敵だから気を取られたのですわ」

 その声は驚くほど柔らかい。
 刺すような棘は表には出さず、家族の欠点を“恥ずかしそうに打ち明ける、慎ましい姉”を演じている。

 節子は静かに櫻子に同意する。
「ええ。和臣様、どうかお気をつけてください。人のものを奪うのが好きな泥棒の血を引いてますから」

 節子の言葉に倫太郎が眉を顰めながらも、妻と娘に同調した。
「それはいけないな。小笠原家に迷惑が掛かるような真似は許されん」

 雪乃の指先が、ぎゅっと布巾を握りしめた。

 全身が小さく縮こまり、呼吸さえ浅くなる。

(泥棒だなんて⋯⋯私は何も盗んだことがないのに⋯⋯)

 言いたい。否定したい。
 でも、奉公人の立場では声を上げられない。