禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 盆が傾き、湯気がふわっと宙に散り、茶器ががちゃり、と音を立てて揺れる。

 雪乃の身体が前に倒れそうになった。
 和臣は反射的に立ち上がりかけたが、言葉が出ない。
 声をかけられない。

 武虎が驚いた声を上げる。
「雪乃、大丈夫か!」
 雪乃は咄嗟に踏ん張り、なんとか茶器を落とさなかった。
 震える指で盆を抱え直す。

 櫻子は眉をひそめ、「あら、足元を見ていなかったのね」と雪乃を非難した。

「まぁ、名家に勤めるには、慎みも配慮も足りませんわね。雪乃は本当に恥ずかしい娘で、小笠原様には申し訳ないですわ。」
 節子も呆れたように軽くため息をつく。

 雪乃の胸がひりりと痛む。
 櫻子が仕掛けたのに、責められるのは自分。
(いつもの事だけど⋯⋯いつもより胸が痛い)

 和臣は拳を固く握り、叩きつけたい叫びを喉に押し込んだ。
(やめろ。これ以上、雪乃を侮辱するな)

 でも声は出ない。
 届かない。
 救えない。

 雪乃は俯き、小さく震える声で言う。
「申し訳ございません」

 櫻子はその様子を見て、勝ち誇った笑みを浮かべる。