「この通り、和臣は言葉を失っている。妻になる人には不便を強いられている息子を支えて欲しい」
「言葉が話せなくとも、立派なお方です。和臣様の力になれるよう、精一杯努めます」
櫻子は武虎の言葉に頷きながら答え、笑顔は控えめな“良家の娘”を演じる。
武虎は満足そうに頷く。
「うむ。殊勝な娘さんだ。和臣は良い嫁を迎えられそうだ」
和臣の胸が痛む。
声が出れば否定できるのに。
喉はただ乾き、何も言えない。
障子の向こうで、かすかな足音がした。
雪乃が盆を抱えて現れた。
白い襟元に光が落ち、おずおずと、しかし丁寧にお茶を運んでくる。
徹夜明けの疲労はまだ瞳に残っていたが、姿勢はまっすぐで、作法は決して乱れていない。
櫻子はその姿を見ると、ひそかに唇を歪めた。
(来たわね、邪魔者)
「あら? 雪乃」
自分を折檻して憂さ晴らしをしていた母、節子の声に反射的に雪乃が震える。
雪乃が白川倫太郎に茶を差し出そうと一歩踏み出した、その瞬間。
——すっ。
櫻子の白い足袋が、雪乃の足首をひっそりと払った。
「きゃっ!」
「言葉が話せなくとも、立派なお方です。和臣様の力になれるよう、精一杯努めます」
櫻子は武虎の言葉に頷きながら答え、笑顔は控えめな“良家の娘”を演じる。
武虎は満足そうに頷く。
「うむ。殊勝な娘さんだ。和臣は良い嫁を迎えられそうだ」
和臣の胸が痛む。
声が出れば否定できるのに。
喉はただ乾き、何も言えない。
障子の向こうで、かすかな足音がした。
雪乃が盆を抱えて現れた。
白い襟元に光が落ち、おずおずと、しかし丁寧にお茶を運んでくる。
徹夜明けの疲労はまだ瞳に残っていたが、姿勢はまっすぐで、作法は決して乱れていない。
櫻子はその姿を見ると、ひそかに唇を歪めた。
(来たわね、邪魔者)
「あら? 雪乃」
自分を折檻して憂さ晴らしをしていた母、節子の声に反射的に雪乃が震える。
雪乃が白川倫太郎に茶を差し出そうと一歩踏み出した、その瞬間。
——すっ。
櫻子の白い足袋が、雪乃の足首をひっそりと払った。
「きゃっ!」
