禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 佐和子は真っ青になり、何度も頭を下げながら、逃げるように屋敷の裏へと走っていった。

 武虎は雪乃を一瞥すると、表情を緩め、静かに言う。

「雪乃、怖かっただろう。しばらくは休んで良い。今度、こういった嫌がらせがあったら報告してくれ。君には気持ちよく働いて欲しい」
「お気遣いありがとうございます。旦那様」
 武虎の声音には、欲を抑えきれずに雪乃へ手を伸ばそうとしていた“あの武虎”の影は微塵もなかった。

 まるで——全く別人のように澄んだ眼差し。

 その瞬間、和臣は悟った。

 ——父は、おかしかったのではない。
 ——操られていたのだ。
 ——妖狐の妖術で。

 胸が締めつけられる。
 尊敬していた父が戻ってきた事への安堵と、父をあんな姿にした妖への怒り。
 そして雪乃を守れなかった自分への後悔が混ざり合う。

 武虎は和臣の肩に手を置いた。

「和臣。雪乃はお前と歳も近い。若くして一人で奉公に来たんだ。心細い事も多いだろう。是非仲良くしてやりなさい」

 和臣は思わず目を見開く。

 父の言葉が、胸の奥を深く突き刺した。