禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 小笠原家の当主ーー小笠原武虎。

 かつてのように背筋は伸び、眼差しには凛とした切れ味が宿っている。
 あの歪んだ欲望の影は、どこにもなかった。

 武虎は一歩、また一歩と庭へ降りてくる。
 その視線が雪乃の傷ついた姿を捕らえた瞬間、険しい怒りが眉間に現れた。

「お前か、佐和子」

 佐和子は凍りついたように動けなくなる。

「だ、旦那様、これは、その雪乃が⋯⋯」

「黙れ」

 武虎の声は、刃物より鋭く冷たかった。

「奉公に入ったばかりの子を痛めつけるとは何事だ。小笠原の家に仕える者として、恥を知れ」

 佐和子の膝が震える。

「で、ですが、白川家の櫻子様が⋯⋯その、この子は男に⋯⋯」

「言い訳は聞かない! どんな理由があろうとも、この家で虐めのような真似は許さん」

 武虎の声音が一段低くなる。
 その口調は、かつて和臣が深く尊敬した“小笠原家当主の武虎”そのものだった。

「佐和子! 今すぐ荷をまとめろ。今日付けで、お前はこの屋敷の女中を辞めてもらう」

 佐和子がうろたえ、口をぱくぱくさせる。

「えっ? 解雇、ですか?」

「二度と言わせるな。失せろ」