禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 自分に向けて必死に何かを言おうとしていた雪乃が、今は侮辱に耐えている。
(雪乃、どうして⋯⋯)

 雪乃は虐げられても、反抗的に睨みつける強さを持っていた。
 それなのに今はただやられっぱなしになっている。

 佐和子が雪乃の髪を、また掴んだ。

「ほら、顔を上げな! 泥まみれじゃないか。みっともないねぇ!」
 雪乃の頭が後ろに大きく引かれ、首元が苦しげに伸びる。

 その瞬間。

 ばさっーー和臣は無意識に一歩、縁側から庭へ踏み出していた。
 足が自分の意志と関係なく前に進む。

 視界の端が赤く染まり、胸の奥で抑えていた怒りがついに堰を切る。

 佐和子が気づいて振り返った。

「あら、和臣様、いかが致しましたか?」

 その言葉を封じるように、和臣は殺気さえ帯びた視線で佐和子を射貫いた。
 佐和子の背筋がぞくりと震える。

 和臣の喉は震えている。
 声は出ない。

 けれどその沈黙は、叫びより恐ろしい怒りを帯びていた。

 佐和子は慌てて雪乃の髪から手を離した。

 和臣はゆっくりと、雪乃の前に歩み出る。
 彼女の手の震えを見つめ、砂にまみれた指先を見て、胸が軋んだ。