禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 彼女の視線の奥にある“痛み”と“何かを求める温度”が、かつて彼女に寄り添った日の記憶を呼び起こす。

 声は出せない。
 けれど、胸の奥の痛みが強くなる。

 手が動きそうになる。
(雪乃は言いたいんだ⋯⋯何か、俺に⋯⋯)

 佐和子が雪乃の腕を掴み、庭へと引きずるように連れて行く。

 落ちた雪乃の影が、弱く、細く、揺れた。
 和臣はその影を追うことができない。

 ただ、胸の奥で凍っていた何かが、じくじくと溶け出すのを感じていた。

 雪乃は振り返り、最後にもう一度だけ、和臣の名前を呼ぼうと唇を動かした。

「和臣さ⋯⋯」
 声は小さすぎて届かず、その続きは、秋風にさらわれて消えた。

 和臣はただ、彼女が“必死に伝えようとしていた”と理解した。
 それだけが胸に突き刺さり、痛みに変わっていく。

 朝の空気は澄んでいるはずなのに、今日の庭は妙に重苦しく沈んで見えた。

 雪乃は竹ぼうきを握り、ふらつく足取りで庭の落ち葉をかき集めていた。
 徹夜明けの身体は冷え切り、まとわりつく秋風が皮膚を突き刺す。

 佐和子の影が背後に迫る。