禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 名前を呼ばれたときの声の響き、手を握られた温もり、かすかな記憶の断片が、切れた糸のようにぱらぱら落ちてくる。
 その断片が繋ぎ合わさってくると、本当にあったことのような出来事の記憶が蘇る。

 和臣はただ雪乃の後ろ姿を見ていた。
 しかしその目は、痛むほどに雪乃へと向けられていた。

 和臣の足は無意識と雪乃に近付いて行く。

 雪乃は振り返り、弱々しく笑う。
 唇が震え、小さな声で言おうとする。
「和臣様、あの⋯⋯」

 佐和子が苛立ったように雪乃の肩を突く。

「いいから働きな! 和臣様に色目使っている暇なんてないのよ! この女狐が!」
 雪乃の身体がぐらりと揺れ、足元に手をつきそうになる。

 それでも、彼女は再び顔を上げ、和臣を見つめる。
(お願い、少しでいいから⋯⋯)

 目が語っている。
 言葉にできなくても、伝えたくて仕方がないという必死さが、和臣にまで届く。

 和臣の心は大きく波打った。
 雪乃が何かを言おうとしている。

 いや、言いたくてたまらないのだと、ひしひしと感じた。