禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 雪乃は思わず一歩、和臣に近づこうとする。
 和臣は震えを抑えきれないながらも、そっと首を横に振った。

 近づけば、崩れてしまう。
 何も言えない自分が、もっと惨めになる。
 雪乃はその意味を読み取ったのか、苦しげに唇を噛みしめ、武虎へ向き直った。

「お願いです、旦那様⋯⋯」
声はかすれ、掠れ、それでも必死だった。

「結婚に関しては、考える時間をください。せめて、少しだけでも⋯⋯」
 廊下を渡る冷たい風が、雪乃の袖を揺らした。
その細い姿は、まるで凍えそうな子鹿のように見える。

「考える必要はない」
武虎の言葉は、鋼鉄の板を叩きつけたように重く冷たく響いた。

「お前も、お前の家も、もう決まっているのだ」

ぱちり。

 扇子が閉じられた、その小さな音だけが異様に大きく、雷鳴のように廊下を震わせた。
 その瞬間、庭園の奥、石灯籠の陰がふっと歪み、黒い影が揺れた。

 人の形をしているようで、人ではない。
九つの尾を持つ狐の耳をもつ影。

 大妖の使い魔が、闇を滑るように近づいてくる。
(時間が……ない!)
 和臣の瞳が大きく揺れた。

 焦燥が体の中で爆ぜ、膝が震える。