禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

和臣が襖をそっと開けると、母、琴音の寝室には薄い朝の光が静かに差し込み始めていた。

 外はまだ夜の名残を残しているのに、部屋の空気だけがほんのり温かい。

 琴音の枕元にーー雪乃がいた。

 薄い羽織を肩にかけ疲れた瞳を落としながらも、琴音の額にそっと手を当て、濡らした手拭いを替えている。
 明らかに眠らず看病をしていただろう雪乃を見て、和臣の胸が痛む。

 余命宣告を受けてから弱ってく母を見るのが怖くて、和臣はここに来なくなっていた。

 現時点でいつ死んでもおかしくないと言われている琴音だが、梅が蕾をつける頃まで生きる。
(雪乃が夜通し看病してくれていたんだ。だから母は生にしがみついてくれた)

 目頭が熱くなり懐かしい記憶が、秋の林の匂いのようにふわりと蘇る。
 母が亡くなったまだ肌寒さの残った日。

 泣き崩れる自分に、雪乃は何も言わず、ただ傍にいてくれた。

 冷たい手なのに、不思議と心だけが温まった。
 あの時の、柔らかな涙の匂いと、静かな寄り添い方まで思い出す。

(雪乃⋯⋯)

 名を呼びたくても、喉は動かず、声は出ない。
 それが、今は余計に辛かった。