禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 凍てつく力も、幻想的な氷の光も、得体の知れない力には届かない。

 雪乃は微かに微笑み、美しい瞳に涙を浮かべた。

『⋯⋯和臣⋯⋯様、生きて⋯⋯』
 和臣は雪乃の手を握ろうとするが、雪乃は片腕を喰われながらも最後まで微笑んで彼を押し出す。

 和臣は必死に走った。
 薄暗い山道を抜け、和臣は天狗の棲むという古びた社へ辿り着いた。
 雪をまとった鳥居が静かに佇み、凍てつく風が耳を刺す。

 遠くで杉の枝が軋む音がし、冬の夜の静寂が重く、胸に圧し掛かる。
 社の中は薄暗く、赤い提灯が微かに揺れ、影が壁を踊る。

 和臣は手を合わせ、天狗の姿を探した。

 巨大な闇に溶け込み、鋭い目だけが彼を見据える。

『天狗様、雪乃を助ける力が、どうしても欲しいのです』

 和臣の心は揺るがず、ただ純粋に、雪乃を救いたいという思いだけが込められていた。
 天狗は静かに息を吐き、淡々と告げる。

『すでに雪女ーー白川雪乃は大妖に喰われた』
 その言葉が、和臣の胸を凍らせる。
 血のように熱かった心が、瞬間、重く冷たい闇に沈む。
 雪乃の、笑顔も、温もりも、優しさも全てが消えたのだという現実。