禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

(和臣様と話さないと⋯⋯この記憶がなんなのか!)

 その瞬間、冷たい女中の声が空気を切り裂く。
「雪乃! 何、サボっているんだい? こっち来な」

 雪乃は咄嗟に答える。
「はい、申し訳ございません。今、参ります」

 次の瞬間、初老の女中・佐和子が雪乃の髪を力強く引っ張った。
「全く、白川の櫻子さんから聞いてた通りのアバズレだね。和臣様に唾付けに行ってたのかい」

 痛みに顔をしかめる雪乃の姿。

 それを見て、和臣の胸は張り裂けそうになる。

 声も出せず、手も出せず、ただ苦しそうにする雪乃を見つめるしかない自分の無力さに、息が詰まった。

 佐和子は、雪乃にとって過去最も手厳しい女中のひとりだった。

 過去二度は自分が解雇した女。

 しかし、今この時は、雪乃のために動くことが和臣には恐ろしく重くのしかかる。
 雪乃は痛みに眉をひそめつつも、必死に耐え、悲しそうな視線を佐和子に向ける。

 和臣の心の中では、過去の記憶と今の絶望が絡み合い、胸の奥で凍りついた感情が音を立てて崩れるようだった。

(動けない。もう、守れない)