禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

「悪い? 何を言っているの、雪乃。貴女が生まれてきたことそのものが、私にとっては“悪”だったのよ」

 足元が崩れるような感覚。
 胸が、締めつけられる。

 櫻子の瞳は宝石のように澄んでいるのに、その奥には氷の破片のような憎悪がぎっしり詰まっていた。

「雪乃。私はずっと、貴女がいなければ良かったと思っていた。貴女のような不義の子がどうして皆に“美しい”なんて言われるのか、理解できなかった」
 櫻子の言葉を聞きながら、妖狐がくすりと笑う。
 その尾が霧の中をなめるように揺れる。

「男に色目ばかり使ってどんなアバズレ女の娘かと思えば、化け物の娘だったのね。さよなら、雪乃。最期くらい私の役に立ちなさい」

 雪乃の全身が震えた。
 姉の思惑も自分の正体も知らないまま、姉の手を必死に握っていた自分があまりに愚かに思えた。

 櫻子は近づき、雪乃の頬をなぞる。

 その指先は、ひどく優しいふりをするのに、触れられるだけで肌が切れそうなほど冷たかった。

「さあ雪乃。行きなさい。貴女の居場所は、あちらよ」

 妖狐の影が、雪乃の眼前に大きく伸びる。
 雪乃は恐怖に膝が震え、後ずさった。