禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 当然、母親は人間だと疑いもしなかった。

 やっと雪乃は櫻子の手が離れていることに気づく。

 振り返ると、櫻子はひどく満足げな顔で立っていた。

 その微笑みは作り物ではなく、むき出しの本性だった。

「お姉様?」
 雪乃の声が震えた。

 櫻子は口元を手で抑えながら、優雅な仕草でクスクス笑う。
「紹介するわ、雪乃。この方が私と契約をを結んでくださった方よ。貴女を差し出せば巨万の財を我が白川家にもたらしてくれるの。お金さえあれば、私は誰に擦り寄る事もなく優雅に暮らせるわ」

 妖狐は櫻子の横にすっと立ち、その目で雪乃をなめるように見た。
 櫻子は軽く肩をすくめながら言う。

「どちらにしろ、貴女は一年後、この方に捧げられる予定だったのよ。でも、雪乃の面倒を見てきたのは白川家なのだから、貴女を売ったお金は白川家が貰うべきよね」
 さも当然のように、美しい声で櫻子が続ける。

 雪乃の喉が張りつき、息ができなくなる。
「ど、どうして? お姉様、私は⋯⋯私は、なにか悪いことを?」

 櫻子の微笑みが、ひどく残酷に揺れた。