禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜


「お姉様、ここ、本当に?」
「ええ。ここで待ってなさい。今、貴女を解放してくれる方が来るから」
 櫻子は笑って答えるが、その声はまるで、獲物を静かに追い詰めるときのような響きを持ていた。

 雪乃は唇を噛む。
(何かがおかしい。けれど、お姉様私を助けてくれる⋯⋯そう信じたい)

 そう思っても、
 心の奥底で黒い影が膨らんでいく。

 その時、朝霧がかすかに脈打ち、黒い影が姿を現した。

 細長い目。
 白い仮面のように滑らかな顔。
 九つではないが、長く揺れる狐の尾。

 その存在は、人の形を取りながら、

 明らかに人ではなかった。
 雪乃の足が止まる。

「妖狐?」
 雪乃は妖狐に出会した事がないはずなのに、既視感を覚えていた。

 影はふわりと笑った。
 声は甘く、女性のようだが男の匂いがする。


「来たね。白川の娘。雪女の血を引く白川雪乃」
 ぞくり、と背中を冷たい爪で撫でられたような感覚が走る。
(雪女の血を引く? 誰のこと? まさか私?)

 雪乃は自分が妖の血を引いているなど考えた事がない。
 自分は父、白川倫太郎が他所で作ってきた子だとは知っていた。