禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 櫻子の笑みが深くなる。
 朝の冷たい空気の中で、その笑みはどこか妖しく輝いていた。

 小笠原家の裏口はひっそりと暗かった。
 見張りがいないのは櫻子が上手くやってくれたのだろう。

 櫻子は灯りを持たず、朝の霧の中を迷いなく歩いていく。
「早く行きましょう。あまり長居すると気づかれてしまうわ」

 櫻子の声は軽やかで、急かすようで、しかしどこか楽しげだった。
 雪乃はその背にぴたりとついていく。

 裸足の足が湿った土を踏むたび、ひやりと冷たさが伝わり足が震える。
「お姉様、どちらへ?」

 問いかけると、櫻子は振り返り、妖しい笑みを見せた。
「大丈夫よ。誰にも見つからない場所へ。安心して、助けになる人も待っているわ」

 “誰にも見つからない場所”。
 その言葉が胸の奥に小さな不安を落としたが、雪乃は櫻子の歩調を乱さぬようついて行くしかなかった。

 小笠原邸の裏にある竹林の中をひたすらに進む。

 ざあ⋯⋯と竹林を渡る風の音ばかりが響き、あたりは自然の闇に呑まれていく。
 雪乃の足音は、櫻子のそれよりも少し早く、少し乱れていた。
 急ぎながらも不安で、胸の鼓動がやけに大きい。