禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 ほんの一瞬、木の戸越しに、薄い温もりが伝わる。
(和臣様、なの? もしかして、来てくださったの?)

 胸が痛いほど熱くなり、指先が震えた。
 涙が滲む。

 和臣が来てくれたーーそう思っただけで、心が救われるようだった。

 扉にピッタリとくっつき耳を澄ませている見張りの番の男の声がする。

『旦那様のご命令です。誰も、雪乃様にお会いしてはいけないと』

 気配がふっと揺れ、雪乃は息を止める。

 きっと和臣が来てくれたのだと雪乃は確信した。
 でも、それは家長の武虎の意思に背く行為。

(和臣様の名前を呼びたい! でも、やっぱり呼べない。和臣様が、武虎様に叱られてしまう)
 自分のせいで和臣が責められることなど、耐えられなかった。

 扉の前で立ち尽くし、そっと額を押し当てる。
 木の冷たさが、皮膚を刺す。

 それでも、扉の向こうに確かにいた“誰か”の気配だけで胸は満たされる。

 雪乃の目から涙がひとすじ落ちた。

 次の瞬間、廊下の足音が遠ざかっていく。
 雪乃は扉に手を伸ばしたまま、震える唇で小さく名前を呼んだ。

「和臣、様⋯⋯」