禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 ただ獲物を見定める捕食者の眼。

「お前の実家、白川家の借金、あれを肩代わりしてやろう」

 雪乃の心臓が跳ねた。
 嬉しさではない。逃げ場を塞がれた恐怖だった。
 武虎は扇子をゆっくり閉じ、扇ぎながら告げる。

「ただし条件がある」

 紫煙の向こう、静かに笑うような目が雪乃を捉えた。

「私の妻になれ、雪乃。お前は美しい」

 その瞬間、へたり込みそうになった。
 だが雪乃はかろうじて膝に力を込める。

 胸の奥で、嫌悪が冷たく花開く。

「私が、旦那様の? 小笠原家の女主人など私に務まるとは思えません」

「雪乃お前は美しい、それだけで十分だ。年頃でもある。家柄も悪くはない。奉公という形にしているが、本来はうちの嫁にしてもなんらおかしくはない」

 武虎は雪乃の顎を人差し指の指先で掬い上げた。

「お前の家は今日中に決意しただろう。かつては一世を風靡したお前の実家白川家も今では娘を売ってでも生き延びたいほど困窮している。もう逃げられん」

 雪乃の指先が震える。
 そのとき、廊下の向こうで影が揺れた。

 和臣だった。

 士官学校の制服のまま、拳をぎゅっと握りしめ、顔が青ざめている。