書斎から姿を現した武虎は、細い煙草の煙を指先で払いつつ、櫻子の顔を眺めた。
葬儀以来の訪問客にしては冷静すぎる視線である。
「櫻子さん。妻の葬儀の時ぶりか。今日は如何したかな?」
武虎の声は低く、感情を押し殺したように平坦だった。
櫻子はその声音を計り、すぐに最も効果のある顔をつくる。
伏せた瞼をわずかに震わせ、唇の端だけを上げて、哀れみと憤りを同時に演じる。
「小笠原様、聞いてください。雪乃が息子さんと浮気していたのを、私、見てしまったんです。手を繋ぎ、顔を近付け⋯⋯これ以上は、私の口からは申し上げられませんわ」
応接間の空気が一瞬だけ張り詰め、武虎の指が煙草を押しつける灰皿の縁で止まった。
櫻子はさらに言葉を重ねる。
声の温度は柔らかいのに、内容だけは氷のように鋭い。
「お恥ずかしながら、雪乃は男と見ればすり寄る癖がありまして。私や母がどれほど戒めても、まるで聞き入れませんの。私ども白川家としても、これでは⋯⋯」
武虎の眉がわずかに歪む。
その表情を見逃さず、櫻子は滑らかに続ける。
葬儀以来の訪問客にしては冷静すぎる視線である。
「櫻子さん。妻の葬儀の時ぶりか。今日は如何したかな?」
武虎の声は低く、感情を押し殺したように平坦だった。
櫻子はその声音を計り、すぐに最も効果のある顔をつくる。
伏せた瞼をわずかに震わせ、唇の端だけを上げて、哀れみと憤りを同時に演じる。
「小笠原様、聞いてください。雪乃が息子さんと浮気していたのを、私、見てしまったんです。手を繋ぎ、顔を近付け⋯⋯これ以上は、私の口からは申し上げられませんわ」
応接間の空気が一瞬だけ張り詰め、武虎の指が煙草を押しつける灰皿の縁で止まった。
櫻子はさらに言葉を重ねる。
声の温度は柔らかいのに、内容だけは氷のように鋭い。
「お恥ずかしながら、雪乃は男と見ればすり寄る癖がありまして。私や母がどれほど戒めても、まるで聞き入れませんの。私ども白川家としても、これでは⋯⋯」
武虎の眉がわずかに歪む。
その表情を見逃さず、櫻子は滑らかに続ける。
