禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 時間は、残酷にも確実に迫っている。

 和臣は声を失った喉を押さえ、必死に雪乃の手を握り返した。

 言葉はなくとも、その指先が叫んでいた。

 お願いだ、離れないで。
 今度こそ、雪乃を守る。
 必ず絶望的な死の運命を変えてみせる。

 雪乃は、その必死な強い握力の意味をまだ知らない。
 ただ胸がざわついて、どうしても彼から目を離せなかった。

――和臣様が何かを伝えようとしている。
――ずっと前から。貴方を知っていた気がする。

 そんな確信だけが、静かに心を満たしていった。

 薄雲の向こうで沈みゆく夕日が、小笠原家の瓦屋根を赤く染めていた。
 竹林を渡る風が、薄暗い廊下に冷たい音を響かせる。
 雪乃が自屋へ戻ろうとすると、奥の書院から声が掛かった。

「雪乃、来なさい」

 低く、獣の唸りのような声。
 小笠原家の主人の武虎であると知った瞬間、雪乃の背筋はぞくりと震えた。

 書院に入れば、武虎は一人、煙草盆の前に座っていた。
 吐き出された紫煙は、まるで蛇のように天井を撫でて消える。

「旦那様、今、参りました。何か御用でしょうか」

 雪乃が跪くと、武虎は薄く笑った。
 その笑みには、哀悼も慈悲もない。