禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 声が出せない代わりに、ほんの少し頭を下げることで感謝を伝える。

 箸を取ると、軒先を吹き抜ける風が紙傘をゆらし、店先の風鈴をちりりと鳴らした。

 卵焼きをひと口。
 やわらかく、ほんのり甘い。
 胸の奥がきゅうと締めつけられ、和臣は箸を止めた。

 声を失って以来、和臣は言葉よりも静けさの中に感情を押し込めてきた。
 だが、その静けさの奥で雪乃への想いがふと膨らむ。
 言葉にはできない。

 けれど、胸の奥にひとつだけ熱が灯る。
 軒先から見える空は、薄い雲がゆっくりと流れていた。
 雪乃の優しさが、冷えた心の底に温かな灯りを落としていくようだった。

 弁当を食べ終えた和臣は、懐から一通の封書を取り出した。
 厚手の和紙を折った簡素な手紙。

「和臣様、お弁当はお口に合いましたか?」

 和臣は小さくうなずき、そして手紙を両手で差し出した。
 雪乃は首を傾げ、受けとる。
 紙を広げると、雪乃は息を呑んだ。

『妖の気配が近い。君が狙われている。どうか、一人にならないで欲しい』
 雪乃の青緑の瞳が大きく揺れる。
 風が吹き、手紙の端がひらりとめくれた。

「どうして、そんなこと⋯⋯」