禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 名家の出で優秀な成績をおさめ誰からも尊敬された和臣はそこにはいない。
 今は言葉一つ発せぬ男として蔑まれている。

 和臣は机に向かい、手に万年筆を握っていた。
(まだ士官学校は妖狐の監視下ではないようだ)

 昨晩、必死に動かそうとしても動かなかった手が動く。

 紙の上に、ひと文字ずつ、慎重に自分の想いを綴る。

ーー雪乃へ。

 言葉が出せなくなってから、初めて書く想いだった。
文字ならば、声に頼らず、雪乃に伝えられるかもしれない。

 しかし、書き上げた手紙を短髪の同級生の一人が覗き込み、笑った。
 時を遡る前は未来の幹部候補である和臣のご機嫌とりばかりしていた佐藤敏夫(としお)だ。

「なにこれ、冗談? 士官学校の優等生、小笠原家の和臣様が手紙で告白だと? 女々しいな。告白くらい言葉でしろよ」

 取り上げられ、机の上に放り投げられた厚手の和紙。
 和臣は目の前の光景に、思わず息を詰める。
(言葉を失っただけで、俺は笑われるのか?)

 声を失う前の自分なら、皆が跪き、尊敬の眼差しを向けていた。
 優秀で、家柄も恵まれ、何を言っても認められた。