禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 特に驚異を感じてはいなかったが、人心を妖術で誘導できるらしい。
(雪乃⋯⋯全部、罠だ)


 武虎は廊下から庭園の黒い影を一瞥した。
 まるで、妖の脅威すら自分の道具と思っているかのように。
 自分が誘導されているなど全く思っていないようだ。
「窮地に追い込まれた娘を救えば、心など容易く懐く。お前も私が捨てた後に雪乃に対して優しく接してみろ。直ぐに落ちるぞ」

 武虎の言葉に和臣は唇を噛む。
 雪乃が軽んじられているようで耐えられない。

「崩れ落ちそうなところを手を差し伸べ、守ってみせれば良いんだ。声などいらん」

 和臣は必死に首を振った。
 父に雪乃の純粋な心を弄ぶことをやめて欲しかった。

「まあ、私がどうあの女を扱うか見て学べ。私ほど女の心の扱いに長けた者はいまい」
 和臣の拳が震えた。

 喉の奥から掠れた声にならない叫びがせり上がる。
 初心な雪乃は本当に父に惑わされてしまうかもしれない。

 愛した女が自分の母になり、そして一年後には妖狐に献上される。

(やめろ⋯⋯やめてくれ!)

 今の武虎の視線には、所有欲と征服欲しかない。
 衝動的に部屋に押し入り和臣は武虎の服を掴むも、振り払われる。