禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 武虎はその異形に向かい、
 まるで旧友と語らうような口調で笑った。

 その声は、雪乃に向ける穏やかさとは別物だった。
 冷たく、傲慢で、自分以外をすべて駒としか見ていない。

 異形が低く唸るような声を放つ。

「一年⋯⋯人の尺度で言うところの短き時。約束は破らぬな、武虎』

「ふん。一年楽しめば、どんな女でも飽きるわ。手に入れた後は、どう使おうと貴様らの勝手だ」

 和臣の心臓が、石を呑んだように重く沈んだ。

(一年。雪乃を献上する?)

 叫びたい。
 殴り飛ばしたい。
 目の前の男を、今すぐ引き裂いてやりたい。

 しかし喉は、何も発せない。
 かすれた息だけが、夜の中へ虚しく漏れる。

 密談を終えると消えていく妖の影に幾つもの尻尾を見る。
 闇に吸われるように姿が溶け、まるで最初から存在しなかったかのように。

(妖狐⋯⋯)

 取り残された和臣は、膝が折れそうになるのを必死にこらえた。

 悔しさに揺れるその瞳を、誰も知らない。
 和臣は我慢ならずに障子を勢いよく開けた。
 抗議するような視線を武虎に送る。
 返される視線は彼の知っていた父のものではなかった。