禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 「そうだな。お前と違って雪乃は、守ってやりたくなるような儚さも持っていた」
 翠人はわざと肩をすくめ、淡々とした声音を装った。
 その瞬間、小春の表情が露骨に曇る。

 頬を膨らませ、あからさまに不満げな顔を向けてくる様子に翠人は内心で苦笑した。
 (まったく、変わらぬな)

 「翠人様、いい加減素直になりなさい!」

 小春はずい、と一歩詰め寄る。桜の花弁がその肩にひらりと落ちた。
 「お母様への気持ちが吹っ飛ぶくらい、私のことが好きでしょ?」

 無防備で、疑いもなく、まっすぐな笑顔。
 その瞬間、空気がわずかに震えた。

 遠くの屋根の上で、何かが息を潜める気配。
 路地の影が、不自然に濃くなる。

 ーー妖が、見ている。
 それでも小春は気づかない。
 自分がどれほど危うい存在であるかを⋯⋯。

 翠人はゆっくりと目を細めた。

 二百年。
 妖狐として生きてきた歳月は決して短くはない。
 自分の十分の一にも満たぬ時しか生きていない女に、心を奪われている。

 雪女の血を引く、危うい人間。
 自分の弱さにも気づかず、強気に笑う娘。

 守らねば、すぐに壊れてしまうくせに、それでも折れない不思議な強さを持った存在。