禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 その奥底に、妖を惑わせる冷たい輝きが潜んでいることを彼女自身はまだ知らない。

 「翠人様は、お母様のことが好きだったの?」
 あまりにも屈託のない問いだった。
 まるで風に乗せて投げた花弁のように軽く、それでいて胸の奥へと静かに沈んでいく。

 翠人はわずかに目を細めた。

 風が止まる。
 遠くで鳴いていた鳥の声も、どこか遠のいたように感じられた。

 ーー雪乃。

 その名は、記憶の奥で白く降り積もったまま決して消えぬ景色のように残っている。
 確かに、あの女には惹かれていた。

 触れれば消えてしまいそうな儚さと、凍てつくような孤独。
 その両方を抱えた雪女。

 だが、視線の先にいるのは今を生きる少女だった。
 まだ二十年しか生きていない、あまりにも短い時を駆ける存在。

 生まれたその日から小春を見てきた。
 泣き声も、笑顔も、拗ねた顔もすべて。
 両親の愛情を一身に受け、真っ直ぐに育ったその性根は雪乃とはまるで違う。

 なのに、胸の奥にある感情は、かつてのそれとは比べものにならぬほど深く、逃げ場もなく、静かに絡みついてくる。
 恋などという軽い言葉では到底足りない。

 もっと重く、もっと抗いがたいもの。