禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 二十年という歳月は、帝都の街並みを静かに変え、人々の装いを洋風へと移ろわせながらも見えぬものたちの気配だけは変わらず、そこかしこに滲ませていた。
 春浅いある日のこと。

 淡く霞む空の下、石畳に舞い落ちた桜の花弁が風に攫われては儚く砕けていく。
 その中を、一人の娘が軽やかに歩いていた。

 小春、その名の通り、柔らかな陽だまりのような気配を纏いながらも、彼女の内には決して人だけのものではない冷たい気配が潜んでいる。
 雪女の血。

 それは美しさと引き換えに、妖をも惹き寄せる呪いにも似た力。
 陽光を受けてきらめく黒髪の奥に、時折ひやりとした光が差す。

 その瞬間だけ、彼女はこの世のものではない何かへと変わる。
 人の男たちは彼女に目を奪われ、妖たちはその血の匂いに惹かれて近づく。

 ゆえに、小春は決して一人では歩かない。
 必ず、その男が傍にいた。

 石畳を打つ下駄の音とは別に、静かに寄り添うもう一つの足音。
 振り返らずともわかる、長い年月を共にした気配。

 「ねえ、翠人様」
 くるりと振り向いた小春の瞳は、春の光を映して無邪気に輝いている。